名称・寺格
慈雲山(じうんざん) 瑞輪寺(ずいりんじ) と称します。寺格は日蓮宗の本山になります。
創建
天正19年(1591年)、徳川家康によって日新を開山として建立されました。
本尊
祖師像(安産飯匙祖師)
ご利益
飯匙祖師像の安産のご利益が有名です。
みどころ
400年前に建立された鐘楼堂があります。飯匙祖師堂の方の境内にある七面宮は、神仏習合の名残の建物で、非常に興味深いです。
アクセス
東京都台東区谷中4-2-5
探訪レポート
久々に谷中を歩きましたが、相変わらず寺院が密集しています。これは、江戸時代になってから、寛永寺が建立されたり、火災などの災害にあった寺院が移転してきたりして、巨大な寺町を形成するようになったそうです。明治維新の廃仏毀釈を乗り越えた理由は、墓地を併設した寺院が多かったからだそうです。墓地を寺院から切り離して寺院を廃寺にするというのはなかなか難しいことのようでした。寛永寺は天台宗の大本山で徳川家の菩提寺ですが、日蓮宗の寺院が多いですね。
日蓮宗の寺院が多いのは、江戸期以前から感応寺という大寺院があったからと言われています。観光客が行き交う谷中の通りを歩いていますと、懐かしいあのお店がまだ存在していて感動しました。喫茶店好きな方はご存知の「D坂より308歩」のお店です。20年ほど前に訪れた時、既に老舗の伝説の喫茶店でした。残念ながらお休みでしたが、まだ営業していることを知って嬉しかったです。
さて、瑞輪寺は谷中エリアにたくさんある日蓮宗の寺院の基幹的な寺院となっているようです。立派な山門を入ると、左手に客人稲荷大明神があります。客人は「まろうど」と読みます。明神は神仏習合の神です。客人は寺社探訪しているとよく目にする言葉で、主祭神に従属しない独立的な立場の神のことを言います。こちらは神社ではなく日蓮宗の寺院なので、神仏習合的に言うと、日蓮大菩薩と縁故関係や従属関係にない稲荷大明神をお祀りしている社ということです。
その日蓮大菩薩の像と石碑です。「江戸十大祖師」という巡礼かあって、瑞輪寺はそのひとつとなっています。江戸にある十ヵ寺の日蓮宗寺院を巡って、祖師(日蓮)のご利益を受けようとする巡礼で、現在ではほとんど行われていないそうです。
こちらはおそらく永代供養の納骨堂だと思われます。観光客で賑わうような寺院ではなく、この日は檀家さんの法事が行われていたようで、喪服の方々がいらっしゃいました。
こちらの鐘楼は徳川三代家光によって寄進され、元和年間(1615〜1624年)に建立されたものです。
本堂です。瑞輪寺の開山の祖である日新上人は、徳川家康の幼少の頃の学問師範だったそうです。その後は日蓮宗の総本山である身延山久遠寺の貫主になり、身延山に詣った家康は将来布教所を寄進することを約束します。そして家康も天下の大将軍となるのですから、凄い師弟ですね。約束通りに馬喰町に瑞輪寺を創設し、何度かの火災による移転を経て、現在に至っています。このあたりは上野戦争の激戦地でもありますね。
本尊は日蓮宗なので日蓮なのですが、台東区の文化財に指定されている釈迦如来像が、位牌堂に安置されています。
こちらは瑞輪寺の敷地内にありますが、入口が別になっています。東京七面山、江戸十大祖師、除厄安産、飯匙(しゃもじ)祖師と書かれています。
本堂には飯匙祖師がご安置されています。文永11年(1274年)3月13日、日蓮が佐渡流罪から放免となって鎌倉に向かう途中、武蔵国の久米川あたりに関善左衛門という人がいて、その妻が難産に苦しんでいて、日蓮に助けを乞いました。日蓮は家にあった飯匙に御本尊をしたためて妊婦にいただかせた。するとたちまち母子ともにつつがなく安産となりました。そして一家一門感激して入信し、日蓮像を彫って、谷中に善性寺を建立して安置しました。後に感応寺に移して、庶民の間に安産のご利益が広まり信仰を集めました。感応寺が改宗することになり、瑞輪寺に勧請して、現在までご利益を求める方々の信仰を集めています。
飯匙祖師堂と書かれた扁額が掲げられています。おそらく瑞輪寺の境内より、こちらの方が訪れる方が多いように感じました。大通りに近いというのもありますし、ご利益がはっきりしているのもその理由と思われます。
右側にあるこのお堂は七面宮と称しますが、七面大明神という神仏習合の神をお祀りしています。七面大明神は、身延山鎮護の神霊で、法華経擁護の善神霊験日々新たかにして、威光年々盛んなりだそうです。七面大明神は七面山の頂上にある寺に祀られている神で、山岳信仰として日蓮より古い歴史があります。日蓮の弟子が七面山に登ってその神を勧請して法華経の守護神としたので、全国の日蓮宗寺院に広まったということです。日蓮宗は他の平安・鎌倉仏教とは異質で、日蓮を信仰の対象とし、排他的な独自路線を歩んでいます。この谷中エリアの日蓮宗の寺院の密集地は、そんな日蓮宗の色を感じることができて、しかも観光地化していてお参りしやすいので、機会があれば巡ってみてはいかがでしょうか。
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