毎年高尾山薬王院の柴灯大護摩供に参加しているのですが、今年は仕事の都合で行けませんでした。毎年していることをしないでいると、どことなくしっくり来ないものです。そこで退院後のリハビリを兼ねて、GWの只中に行われる川崎大師の柴灯大護摩供に出かけることにしました。
今回は川崎大師の10年に1度の大開帳奉修の期間中ですから、大混雑が想像されます。混雑が苦手なので、どこまでレポートできるか自信はありませんが行って参りました。12:30頃に川崎大師駅に到着し、賑やかな参道を歩きます。川崎大師の参道は、寺院の横を行き過ぎて戻るパターンなのですが、お昼時なので蕎麦屋さんは大行列になっていました。
トンカカカントントンと飴切り包丁の音が響く中を進みます。他にも久寿餅屋さんやだるま屋さん、饅頭に和菓子と、門前特有のお店が軒を連ねていて雰囲気だけで満足してしまいます。
川崎大師は神奈川県の初詣参拝ランキング1位の超有名寺院です。真言宗智山派の大本山という位置付けで、弘法大師を本尊とする〇〇大師と呼ばれる寺院の1つで、正式な名称は「金剛山 金乗院 平間寺」と言います。ちなみに真言宗智山派の総本山は京都東山の智積院です。全国に大本山が3カ寺と別格本山が2カ寺あり、そのうち4カ寺が関東にあります。川崎大師と高尾山薬王院、成田山新勝寺が大本山です。別格本山は東京日野市の高幡不動尊と名古屋の大須観音です。いつもの高尾山薬王院と同じ宗派で同じ大本山なので、川崎大師の護摩供も私にはすんなり受け入れられます。
13:00開始の予定で、12:45頃に到着しました。既に柴灯大護摩供の会場は多くの人々に囲まれています。とりあえず手水舎で手を清めて、本堂へお参りに行きました。
御開帳というからには、日頃見られない何かが見られる訳です。その何かとは、普段は幕の裏側で見ることのできない御本尊の厄除弘法大師像です。この期間だけ幕を上げていて直接拝観できるのです。10年に1度の御開帳ですので、本堂内で行われる護摩行勤修のために多くの参拝の方々が本堂内の畳の間に上がっていました。さて本堂でお参りしていたら、また私の左の親子連れに「お寺でパンパン問題」が勃発しました。母親が子どもに「2回礼して、パンパンして……」と教えていました。んん~~と思っていたら、右の人もパンパン。結局私は心が乱れてお参りどころではなくなり、一番の未熟者となってしまう有り様。本堂から紐が出ています( ↑ )が、これは御本尊の厄除弘法大師から繋がれている「お手綱」といいまして……
本堂正面の供養塔に結び付けられています。そのお手綱が3本手元に垂らされていて、そのお手綱に触れることで、御本尊の厄除弘法大師とより深い御縁を結ぶことができるというシステムです。
そしてこちらがそのお手綱に触れるための行列です。本堂で護摩勤修の他にも、大開帳期間中には様々な特別なご利益の授与があります。この、お手綱もその1つですし、限定の御朱印も授与されています。
中でも有名なのが、この大開帳期間でしか入手できない「赤札」と呼ばれる護符の授与です。弘法大師直筆の「南無阿弥陀仏」の六字名号を版にして、川崎大師の貫主が1枚ずつ手摺りで護符にするというもので、これを求めて多くの人が列を作ります。長時間(4時間待ちとか!)並んでも、打ち切りもあって必ず頂けるとは限らないプレミア感満載の護符で、初日は数千人が列を作ったとのこと。この日も信じられない程の行列ができていました。この( ↑ )12坪✕4張のテントだけでは収まらず、別の場所に大行列が続いていました。
さて、柴灯大護摩供が始まります。見学する場所を探して会場を歩いてみます。撫木(なでぎ)が売ってましたので、今回は術後ということもあり購入しました。裏側に願い事と名前を書くようになっていて、1つ500円します。ご家族の分もたくさん買われている方もいらっしゃいました。この撫木は高尾山薬王院では寺院に預けて、護摩勤修の際に僧侶や行者が護摩檀に投げ込みます。川崎大師では行者の案内で火の近くまで行って、自分で投げ込むこともできます。
法螺貝の音が響き、着物に袈裟姿の僧侶と山伏姿の行者が入場します。柴灯大護摩供はこれまで何度も見ているので、流れは大体わかります。興味のある方は高尾山薬王院での柴灯大護摩供のレポートに詳細を書いていますのでご覧ください。
真言宗智山派の大僧正である貫主様が、敬白文を読み上げて、三丈(棒状の法具)の先を浄水につけて、結界内の道場や周囲の見物者に水加持を行います。高尾山薬王院では、火切石を打つ火切加持です。高野山金剛峯寺も水加持だったと思います。加持というのは、仏様の功徳を衆生が受けることですが、僧がその仲立ちとして仏の功徳を衆生に分け与えることも加持と言います。比叡山の阿闍梨が地域の人々にお加持をする姿は、よくTVのドキュメンタリーで放送されています。
護摩壇も浄めます。敬白文を読む間と見物者を水加持をする間は、一同合掌して儀礼に参加します。私も私の周囲の人と同様に合掌してお加持をしていただきました。
行者さんたちが様々な儀礼を行っていきますが、皆さんピンマイクを付けていて、意味はわからなくても、唱えている文言が聞こえます。司会の僧侶が何をしているのかの説明もしてくれます。こちら( ↑ )は宝弓といって、四方に矢を放ち、結界内の道場に邪悪な魔が入ることを防ぐ儀礼です。実際に矢を放つのですが、受け取った人は持ち帰れるみたいで、欲望むき出しの争奪戦になっていました。見事に奪い取った矢を持って記念撮影している方もいました。
いよいよ火を点す準備に入ります。このあたりから既に撫木を投入する人の行列が作られ始めていました。「閼伽(あか)」といって、1度護摩壇に浄水をかけて、その後に火を点すという段取りです。
松明を前に、願文を読み上げます。川崎大師の願文は短いですが、高尾山薬王院の願文は、特別奉納をした全ての企業や個人の名前を読み上げるので、めちゃくちゃ長いです。
点火前に周囲の状況を見て、私も撫木を投入する列に並びました。会場から煙が上がりましたが、何をしているかわかりません。よく海外の人が日本人が秩序を保って行列を作ることに感心しますが、日本人は行列好きで、前の方に並ぶために尋常ではない努力をします。日本ダービー前の東京競馬場など、何日も前から並んでいる人がいます。ここで梵天加持といって、行者が梵天を振って見物者をお加持するという儀礼があったのですが、隣で並んでいた人が、行列に並ばずにお加持してもらいたかったと嘆いてました。
いよいよ撫木を投入する順番が回ってきて、術後1ヶ月でまだ傷が痛むお腹に撫木を当てて、良くなりますようにと念じました。私が投げた撫木はうまく護摩壇に当たったのですが、弾かれて周囲に転がってしまいました。結局は行者さんが燃やしてくれるので問題はありません。撫木投入の後にまた見物していると、近くにいた川崎大師の撮影クルーの方が周囲の人に「火渡りに参加する方は、もう並んでおいた方が良いですよ」と伝えていました。スタッフさんの話だと、今年は大開帳で人数が多いから、早く並ばないと途中で打ち切りの可能性があるとのことでした。
実はこの後、高尾山薬王院では行われないことが川崎大師では行われるので、私は行列に並ばずに見物していました。それは、行者さんが見物者の手荷物を預かって、燃え盛る護摩壇の近くまで行って炎にかざして浄めてくれます。皆さんカバンごと預ける人が多かったですが、浄めてご利益をいただきたいのはカバンの中の財布だと思われます。私はこのために家から自分の数珠を持って来ていました。「勇者のつるぎ」が「勇者のつるぎ・改」にグレードアップするように、私の数珠も行者さんに火にかざしていただいて価値が増したように感じました。
その後行列に並んで火渡りも体験しました。川崎大師の火渡りは今までで一番熱かったです。渡った後に護摩導師を務めていた僧が、私の首の後ろに法具を当てて、お加持をしてくれました。
今年も火渡りをすることができて、どことなくしっくり来ない気持ちも解消されました。お手綱の行列はまだ続いていて、赤札の行列は火渡り前よりも更に増えていました。数千人規模に見えました。ちなみに10年に1度の大開帳奉修の期間というのは5月1日から31日までですので、平日に訪れたらここまでの行列にはならずに、ご利益をいただけると思われます。
10年に1度のプレミアですが、私は行列に並ぶのを諦めて、珍しい奪衣婆のお堂にお参りに行きました。美や健康(健脚)にご利益があるそうです。奪衣婆は冥界の三途の川のほとりで、やってきた人の衣服を脱がせて枝に吊るし、枝のしなり具合で生前の罪の重さを計るという役目を担っています。閻魔大王と一緒に祀られていることが多いですが、川崎大師では単独で美の仏様としてご安置されています。
次回は令和16年(2034年)の開催です。行列に並ぶ根性がなくてお手綱や赤札のご利益は得られませんでしたが、大開帳の本堂にお参りして、柴灯大護摩供では撫木の投入と火渡りに参加できました。数珠もグレードアップしたし、気持ちもスッキリ満足いたしました。GWの川崎大師は混雑していますが、混雑を見越してきちんと対策ができているので、割とストレスは少なく過ごせます。ただ、赤札の行列は尋常ではなかったですが、苦労の末に手に入れるのも1つの修行なのだそうです。
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