寺社探訪

寺社探訪とコラム

「年末ジャンボ宝くじを買いに行く」

「伝統行事」と呼べるかはさて置いて、年末ジャンボ宝くじだけは毎年欠かさず買っています。何十年も買い続けていますが、残念ながら購入金額を超える当選金を得たことはありません。それでも数十年分のマイナスを一瞬で取り返せる夢に惹かれて、今年も買ってしまうのです。

いつもは大安とか一粒万倍日とかを気にして買います。ネットで調べると当選しやすい買い方が、事細かに書かれています。迷信のようなものから難解な確率統計まで、様々に守るべきルールがあるようです。なるべく発売部数の多い店で買うというのは、理にかなっているかなと思います。

今年は大安でもなく一粒万倍日でもない仏滅の日に、用事で新宿に来たからという理由で、新宿で購入することにしました。必勝法と真逆の、こういう買い方をしてはいけないという見本です。用事というのは、月に1度西新宿の高層ビル群にある病院に通っているのです。

午前中で用事は終わり、新宿中央公園を抜けて、西新宿の総鎮守、十二社熊野神社にお参りに行きます。これから宝くじを買いに行きますので、大当たりお願いしますと祈願しました。

西新宿に来ると、上京したての頃を思い出します。数十年前になってしまいましたが、その頃から西新宿には高層ビルが立ち並んでいました。当時は神戸市にある自動車部品工場でバイトをしていたのですが、7月31日付けでバイトをクビになり8月1日に引越しして上京したという身の軽さでした。失業保険が貰えたので、仕事探しをしつつ毎日あちこちに出かけていました。

田舎者ですから東京に憧れがあって、西新宿の高層ビル群に囲まれるとテンションが上がります。まだ20代で自己心酔系尖がり病だった私は、高層ビルの地下テラスのような場所で小説を読むというのをよくやっていました。純文学にのめり込んでいて、村上龍辻仁成大江健三郎が好きでよく読んでいました。まだあるのかな? と四半世紀前の自分の居場所を尋ねてみました。こちらは三井ビルです。ほぼ変わってない様子で、懐かしくて胸が震えます。

アイランドタワーの地下テラスも健在でした。お店は変わったかも知れませんが、雰囲気があの頃とほとんど変わってません。当時は中野に住んでいて、私の居場所だった中野の「クラシック」や歌舞伎町の「スカラ座」は今はもう無いのですが、ここは無くなりませんね。

こちらはエルタワーの地下テラスで、あまり人がいないので静かに過ごしたいときはここに来ました。もっと狭かったような気もして……ちょっと違っている感じも受けます。こんなオブジェがあったのか覚えていませんが、こういう場所に座って本を読むあの頃の自分が目に映るようです。

いつも利用している調剤薬局でお薬をいただき、新宿駅西口の宝くじ売り場「新宿チャンスセンター」で、年末ジャンボ宝くじを購入しました。さすがに仏滅なので、ガラガラに空いていました。

購入した宝くじという名の夢を背負って向かったのは、新宿総鎮守の花園神社です。この購入した宝くじが大当たりしますようにと祈念しました。クシシュトフ・キェシロフスキ監督の「身を切るような孤独を知っている者だけが、人生の美しさを真に享受することができる」という言葉に心酔していた当時の私は、上京して最初の12月31日23時50分に新宿アルタ前にひとりでやってきました、新年へのカウントダウンをするうねりのような群衆の中にひとり突っ立って、美しい空を見上げて孤独を嚙み締めました。その後私は花園神社に向かい、誰もが誰かと一緒に並んでいる大行列に、ひとりで並んでみました。身を切るような孤独を、何だと思っていたのでしょうか?

西新宿と違って新宿東口の街は生きているみたいに日々移ろいゆきます。新宿に来ることも少なくなり、あの頃の親近感はもうありません。東京に住んでいるという興奮に突き動かされて、多くの人々と出会ってきました。剥き出しの魂を晒して、傷付きながら若い毎日を生きていた頃の記憶が、懐かしさと苦さと共に蘇ります。脳内に竹内まりやの「駅」が流れる中、新宿駅に吸い込まれました。

 

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