フリーランス葬祭スタッフをしていた頃の私の1日をご紹介します。以前書いたものを加筆修正してお届けいたします。人々に助けられながらなんとか26年間続けられましたが、フリーランスなので、仕事があれば仕事、仕事がなければ休みという毎日です。若い頃は行き先となる会社も時間も毎日バラバラでしたが、年が経つと行き先はだいたい絞られています。仕事内容は多岐に渡っていて、その都度バラバラです。何でもやってやるという意気込みがこの仕事には必要です。毎日違うので、たまたまこの1日はこうだったという感じのレポートです。それでは、知られざるお葬式の仕事の世界をお楽しみください。
7:20 起床
出社時刻は毎日違います。朝7時台という日もあれば、お昼過ぎという日もあります。朝起きる時刻は、家を出る時刻から逆算します。夜寝る時刻は、翌朝起きる時刻から逆算します。超不規則ですが、そんな生活を数十年続けてきました。ギリギリまで寝ていたいタイプなので、起き上がるとすぐに忙しく動き出します。この記事を書いた頃は食事制限で外食できず、毎朝お弁当を作っていました。
8:15 出発
マイカー通勤が基本です。私は軽貨物ドライバーの仕事もしていますので、通勤にも軽バンを使っています。車の中は仕事の道具がいろいろ積んであり、車で職場へ向かうと何となく安心します。マイカー通勤で怖いのは渋滞です。ヒヤヒヤしてしまうので、余裕を持って家を出たいとは思っていましたが、実際は……。
8:45 出社
出社といっても、契約葬儀社(の事務所)に出社します。基本的に契約は1日単位なので、今日はこちらでお世話になります、という感じです。朝9時出社指定だったので、少し前に到着です。私が入る葬儀の担当者と口頭で打ち合わせします。何年も共に働いている仲なので、ツーカーで打ち合わせは終わります。本日の葬儀は、葬儀・告別式・初七日法要・納骨を行うワンデー家族葬とのこと。担当者は葬家に向かうので、ここから私は単独行動になります。倉庫で必要な道具類を揃えて、葬儀社の箱バンに積み込み、お寺に向けて出発します。
10:00 設営
お寺に到着し、挨拶をしにいくと、玄関で顔見知りの檀家総代さんがお寺さんとお話ししていました。最近撤退が噂されている仕出し料理屋さんの話をしていたようです。いくつか質問されましたが、何も答えられませんでした。情報に疎くて困ったものです。まあ、私のようなフリーランスが他社の廃業や撤退のことを語れることなどないので、余計なことは言わざるが吉です。さて、車を式場横につけて搬入です。家族葬なので道具類も少なく、すぐに終わりました。その内に生花店の皆さんがやってきて、生花祭壇の設営を始めます。私は式場内の細かなものを用意して、遺族を迎える準備を整えていきます。
10:30 ご遺体到着
先にご遺体が、その後で担当者が式場に到着しました。ご遺族は11時過ぎとのこと。お迎えの準備は万端なので、細かい点を担当者と確認しつつ遺族を待ちます。11時前にセレモニーレディさんが式場入りしました。本日の流れについて打ち合わせをします。お寺様が式場へ準備をしに来たので、その時間に式進行について打ち合わせを済ませます。といっても、私はこの地域で25年以上働いていますので、担当者ともセレモニーレディさんとも、このお寺様とも数え切れないほど一緒に仕事をしてきましたから、それほど入念な打ち合わせがある訳ではありません。要点のみパッパと伝え合う程度なので、知らない人には暗号の会話のように聞こえるでしょう。
11:00 遺族・親族到着
今回は家族葬で、故人の長女が喪主で、喪主家族と、喪主の妹家族のふた家族のみの参列予定です。自家用車2台で到着。火葬場へも自家用車で行くとのことなので、出発しやすい駐車場所に誘導します。生花祭壇の色味だけでなく、使用される花の銘柄にも指定があったようで、お花に詳しくて、こだわりの強い芸術肌の感じを想像していましたが、温和で接しやすい印象でした。私は司会進行役を務めるので、開式前に喪主に挨拶をして、進行上の確認や説明をします。すると、以前コラムに書いた「お焼香は何回ですか?」という質問がありました。
12:00 葬儀開式
このお寺の住職様は、宗派内で相当に位が高く、大僧正で大阿闍梨というこの上がない存在です。この度の遺族は住職の一家とも親しく、院号付きの立派な御戒名をいただくようなお家柄ですので、ご高齢の住職様が直々にお勤めされていました。コロナ禍でのお葬式は、こんな風にごく近しい家族のみということが多く、弔電を読み上げたり、親族代表で挨拶をしたりすることが省略されます。それはそれで構わないのですが、最後にひと言、というのは、日本人的な締めくくりに欲しい気分です。お花入れも、たくさん参列者がいればいいのですが、少人数でお棺いっぱいにお花を手向けるには、何回も何回も入れてもらわなければなりません。このあたりはまだ「コレ」という型が出来上がっていない状態でした。
13:00 出棺
コロナ以前は親族に手を添えていただいてお棺を運んでいましたが、参列者が少なすぎて、私たち葬儀社関係者がお手伝いすることが増えました。ともあれ、遺族こだわりの高価できれいな花に囲まれて、故人様は火葬場へ向けて出発しました。この葬儀社では担当者が火葬場へ行かないので、出棺後は一緒に式場の撤収作業をします。式場の片付けが終わると、生花店の皆さんとセレモニーレディさんは帰られますので、担当者と私だけになります。この日の私はお弁当を持参しており、担当者は駅前に食事に出かけました。コロナ以前は、この時間に仕出し料理店の人たちがやってきて、配膳の準備をしたりしていたのですが、コロナ禍で飲食が危険視されている中、葬儀で会食をするのも難しくなっています。今回も会食はありません。いつもなら会食の後、仕出し料理店の皆さんが、式場兼会食室の床を雑巾がけしてくれるのですが、今回は私ひとりで淋しく雑巾がけをしました。
14:50 初七日法要
火葬場から遺族が戻ってきたので、本堂へ誘導し、初七日法要となります。お寺によってやり方は様々ですが、こちらのお寺では住職様の考えで、お寺と檀家の間に必要以上に葬儀社が入るのを嫌がります。葬儀社はサービス満点にしたいから何でも手伝おうとしますが、檀家には檀家の勤めがあり、葬儀社がそれをしてしまうことを住職様は咎めます。なので、本堂へ案内したら、初七日法要が終わるまで葬儀社は基本ノータッチです。本堂で法要をしている間に、墓地へお花をお供えに行きます。墓地では墓石屋さんが既に準備を終えていました。
15:20 納骨
こちらのお寺では僧侶は納骨に立ち会わないので、墓石屋さんと我々で進行して行きます。これは宗派というより、地域の習慣かもしれませんが、納骨のお参りをしてお線香をあげた後、一度墓地の敷地外に出て、もう一度墓地に入り直して初七日のお参りをしてお線香をあげるということをします。納骨のお参りと初七日のお参りは、あくまでも別であるという意味があります。このような面倒なことでも、地域や家系で受け継いできたことをきちんとやることが、悲しみの中でも、ちゃんと送り出したという遺族の心の支えになるのだと思います。
15:40 解散
納骨を終えると、本日の葬送の予定が全て終了となりました。式場前に停めてあった自家用車2台を送り出して、無事にホッと一息です。特に大きなクレームもなく、遺族の思い描いた葬送ができたのではないでしょうか。以前はこの後に葬家に向かい、後飾祭壇を設置したり、花を飾ったり、会葬返礼品を自宅に少し置いたり、ということをお手伝いしたのですが、今回は当日に納骨まで済ませていて、後飾祭壇もありません。会葬返礼品も無いので葬家には行かないで、ここでお見送りして終了です。荷物を積んだ日産キャラバンに乗って葬儀社へ戻ります。
16:00 物品整理
物品を倉庫の所定の場所に戻します、整備が必要なものは整備をします。倉庫の床の掃き掃除とゴミ出しを済ませれば、私の本日の業務はすべて終了となります。
16:45 退社
私の仕事は時間制で、8時間までという料金形態です。8時間を超えると、延長料金が発生します。本日は9時からの業務なので、17時が定刻ですが、業務が終了した16:30にはコロナの関係で開放されました。ですが、葬儀社の社員さんや他のフリーランス仲間と話が弾んで、結局15分前の退社となりました。
18:00 軽貨物配送
早く終わったので、軽貨物配送の仕事をすることにしました。人通りの少ない道路に車を停めて、車中でスーツから作業着に着替え、革靴からスニーカーに履き替えます。全く違う仕事をしていることで、よく大変ですねと言われましたが、これが結構良い気分転換になります。葬儀の仕事で大きなストレスを抱えて、次の日にまた葬儀の仕事をするのが嫌な気分になっても、間に全く違う仕事をすることで、すっかり気分がリフレッシュされてしまいます。ということで、20:30に軽貨物配送の業務が終了し、本日の仕事はこれまでです。
21:30 帰宅
ガソリンスタンドに寄って、ガソリンの補充です。売上ばかり追っていると気づかないものですが、結構ガソリンを頻繁に入れます。ガソリンの価格は真綿で首を絞めるがごとく、高止まり状態が続いています。帰宅すると、まず夕食を作って、作りながら風呂を沸かします。夕食→風呂という順番が最近定着しています。真夏は風呂→夕食になることもしばしば。
3:00 就寝
翌日は朝遅くまで寝ていられるので、この日は夜ふかしして3時頃に就寝です。だいたいこんな感じの1日を送っていました。フリーランスなので、自分で仕事を受けなければ働きません。葬儀の仕事しかしない日もあれば、軽貨物配送の仕事しかしない日もありますし、両方する日も、どちらもしない日もあります。基本的に予定は数日先までしか決まっておらず、今月はちゃんと稼げるのだろうか? という不安が常に付き纏います。
コロナ禍で仕事環境が深刻化していく中、葬祭スタッフの仕事の需要は全体としては減少傾向が続くと思われます。そんな中どのように仕事を得ていくかは各自工夫のしどころです。私は諦めてしまいましたが、仕事の幅を広げたり、副業をしたりして頑張っているかつての仲間たちにエールを送りたいです。
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