昨年は川崎大師、一昨年は高尾山薬王院で火渡り修行に参加しました。今年から日曜日が仕事になってしまったので、火渡り修行は無理かと諦めていました。毎年参加していることなので少し不安に思っていると、真言宗醍醐派の別格本山、塩船観音寺で5月3日の土曜日に柴灯大護摩供と火渡り修行が行われることを知りました。
塩船観音寺では4月の灌仏会(花まつり)の頃からつつじまつりが行われていて、週末ごとにイベントが開催されています。5月3日には例大祭が行われ、その主要行事として柴灯大護摩供が厳修されます。かつてはGWあたりにつつじが満開を迎えていたそうなのですが、昨今の猛暑化によって見頃が早まっているとのこと。ともかく、諦めていた火渡り修行に参加できるので、JR青梅線の河辺駅から塩船観音寺直行の臨時バスに乗ってやってきました。自家用車でもかなり大きな駐車場がいくつか用意されていますが、寺に近いところから満車になっていくので、早めに行くと良いでしょう。既に多くの方々が山門(重要文化財)から境内に向かっています。
前日の東京は猛烈な土砂降りでしたが、この日は熱中症で倒れる人が出るんじゃないかという程のカンカン照りのお天気です。柴灯大護摩供は主に真言宗や天台宗で行われることの多い行事ですが、山伏の格好をした行者が仕切ることからわかるように、修験道の要素が大きく関わっています。
私がこれまでに見た柴灯大護摩供の中でも、最も迫力があったのが同じ真言宗醍醐派別格本山の品川寺でした。そういう意味では塩船観音寺の柴灯大護摩供も期待大です。
仁王門から境内に入ると、正面に阿弥陀堂(重要文化財)があります。つつじまつりの期間、塩船観音寺の拝観は有料なのですが、ここまでは拝観料なしで参拝することができます。
こちらが本堂の円通閣(重要文化財)です。室町時代の建立で、茅葺屋根がいい味出しています。本尊の十一面千手千眼観自在菩薩像(重要文化財)は秘仏ですが、例大祭を含めて年に4回御開帳されます。せっかくなので、本堂に上がってお参りさせていただきました。本堂内は広くはありませんが、観音菩薩の眷属である二十八部衆立像(重要文化財)がずらっと並んでいて、迫力がありました。
鐘楼堂です。こちらも茅葺き屋根が見事です。真言宗醍醐派は京都の醍醐寺を総本山とする古義真言宗の一派であり、修験道の一派でもあります。
境内を奥へ進んでいくと、よく写真で見かけるすり鉢状のつつじ園にたどり着きました。地元の警察や消防団の方々が警備にあたっています。青梅市には有名寺社が多くありますが、日頃は人が少ない地域なので、大きなイベントでは地元を挙げての協力が見られます。
柴灯大護摩供の準備が整っています。開始まではまだ1時間ほどありましたが、既に良き見物場所には多くの人が陣取っています。
つつじを見物しようと近くまで来てみましたが、やはりもう見頃は過ぎてしまっていて、写真で見たような鮮やかな風景ではありません。素晴らしい景色の名残を感じながら、晴天の下を散策します。
こちらは弘誓閣と称する、檀信徒の祈願をするために平成10年に落慶した護摩堂となっています。護摩堂だから不動明王をご安置していると思いきや、塩舟観音寺の本尊である十一面千手千眼観自在菩薩に祈願するのだそうです。
会場をひと回りしてきましたが、だんだんと見物の方々が増えてきました。私もそろそろ良き場所を見つけなくてはなりませんが、ここで早めのお昼ご飯にしようと、持ってきたコンビニおにぎりをいただくことにしました。現地でもお団子やアイスなどの屋台がでていました。境内を出ると、たこ焼きやイカ焼きなどの屋台も並んでいました。食事制限で米を食べる機会が減ってしまったので、おにぎり1個ですが久々の米をおいしくいただきました。
つつじ園の最奥には平和観音像という大きな観音様が境内を見渡しています。会場のテントで護摩木を受付していたので、ひとつ購入しました。川崎大師の柴灯大護摩供では、自分で炎の中に投げ込むシステムでしたが、塩船観音寺では受付に預けて行者に投げ込んでもらうシステムです。いつも病気平癒のことばかり祈願しているので、今回は厄除を祈願しました。新しい仕事に就いて、周囲の人々にたくさん迷惑をかけているので、厄介ごとが少なくなれば有難いです。火渡りの整理券があるのか聞いてみると、今年は整理券なしで並んだ順番に火渡りできますとのこと。
つつじ園の上の方にも鐘楼堂があって、参拝者が自由に鐘を突けるみたいで、間髪無くゴーンゴーンと響いていたのですが、鳴りやんでしまいました。大切な儀式が近づいている証拠でしょう。
世話人さんたちや来賓さんたちが知人を見つけて挨拶する場面も増え、いよいよ始まるのかなという雰囲気が漂っています。私もようやく自分の見物場所をここに決めました。
遠くから見ると、先ほどの弘誓閣(護摩堂)に向かって儀式が行われるのかと思いましたが、祭壇正面に不動明王がいらっしゃいます。柴灯大護摩供は火生三昧といって、身から出る火炎で一切の悪業や煩悩を焼き尽くす、不動明王が入る境地を表す儀式です。なので不動明王に向かって行うことがほとんどなのです。
わからなかったのはこれ( ↑ )です。これ、なんでしょうか? 馬の落とし物のようにこんもり盛られていますが、わざわざ祭壇の正面にあるからには理由があるのだと思います。
そうこうしている間に定刻の11時となり、檀家総代さんたちの仕切りで開会の儀が始まりました。このような地域を代表するような大きなイベントには、関係各所の協力が不可欠なのと、盛大に執り行われることをアピールすること、また少々の忖度によって、多くの来賓が挨拶する場面があります。まずは塩船観音寺の責任役員の挨拶から始まりました。続いて青梅市長→地元選出の国会議員→地元選出の都議会議員→青梅市議会議長→青梅消防署長→青梅市観光協会代表と、挨拶が続きましたが、皆さん長々と挨拶して顰蹙を買うことを嫌ってか、短く簡潔な挨拶でした。ただそれだけに挨拶が全員同じ内容でした。「本日はおめでとうございます」「晴天に恵まれましたが、水分補給してください」「私も火渡り修行頑張ります」ということを、全員ができるだけ短く話していました。
つつじ園の通路にも見物の方々がいますね。上から見下ろす感じで良く見えるのでしょうか? 本堂の方から度々ほら貝の音が響いてくるので、本堂で何かしらの儀式が行われているようです。
行者たちが列を組んで入場してきました。入場の際に、迎える側の行者と、入ってくる側の行者の問答があるのですが、現代の言葉に直すと「何者ですか?」「山城国の醍醐寺の修験者だ」という問答がありました。すると迎える側が「遠路はるばるご苦労様です。設けの席に案内申す~」と言って行者一行が入場してきます。
行者が配置につくと儀式が始まります。それぞれ役割が決まっていて、進行役の行者が「〇〇(儀礼の名前)やる人?」と聞くと、担当の行者が「うけたまわって申す」と中央に歩み出て儀礼をおこないます。儀礼の内容についてはかつて高尾山薬王院の火渡り祭のレポートで解説していますので、ご参照ください。
まず、護摩壇に向かってほら貝を吹いて、宝剣→神斧→法弓と儀礼が進みます。法弓は結界の中に魔が入らないように四方と中央に弓を放つ儀礼ですが、会場がすり鉢状になっていて空が開けて見えるので、放たれた矢の放物線が高く美しく弧を描き、見物の方々も感嘆の声を漏らしていました。
閼伽(あか)という、釈迦如来の心水を護摩壇に注ぐ儀礼の次に、この固そうな木を打ち当てる儀礼がありました。これは床堅(とこがた)という儀礼だと思うのですが、立って行うのを初めて見ました。
その後、檀信徒の祈願を総じて祈願する願文を読み上げます。塩船観音寺の願文はすごく短くて良かったです。高尾山の願文はこちらが心配になるほど長いです。願文が終わったら、いよいよ護摩壇に火が入ります。
般若心経が唱えられる中、長い竹の先に紙垂が付いた、おそらく梵天の意味合いがあると思われるものを炎に充てて、周囲の見物の方々をお加持していました。説明がないので、皆さん何をされているのかわからなかった方も多いのではないでしょうか。私はお加持を受ける際には、合掌して頭を下げて功徳が頭の先から染み込むイメージで受けるようにしています。そして、開式前に疑問だった盛り土は、この竹を立てるためのものだったのでした。
護摩導師が席について、儀礼を進めます。ちなみに、僧侶には僧侶の必要な資格が宗派内で決められているように、行者にも各修験道の派内で必要な資格が決められています。ということで、行者=僧侶ではなく、僧侶の資格を持たずに日頃は会社勤めをして、週末だけ修行をしたり儀礼に参加したりする行者もいらっしゃるそうです。
護摩導師を務めるのが塩船観音寺の住職(管主)さんだそうです。
写真には映りませんが、熱気が凄いです。小さな灰が飛び交っていて、服が灰だらけになってしまいます。般若心経→不動明王真言がお唱えされていました。
祭壇の横にお供えされていた巨大な護摩札を、行者たちが炎に当てています。不動明王の火生三昧による悪業や煩悩を焼き尽くす炎の功徳を分けていただくという意味があります。私は300円の護摩木一本に壮大な祈願しましたが、こんなまな板のような護摩札には、どんな願いが込められているんでしょうね。
大威徳明王真言、金剛夜叉明王真言、大金剛輪陀羅尼、一字金輪などなど読経が続く中、護摩導師の作法が続きます。この( ↑ )扇子のようなもので炎を仰ぐ仕草は、多くの柴灯大護摩供で見ることができます。南無大師遍照金剛、南無神変大菩薩と唱える声に合わせて、隣にいたおばさまが手拍子を打っていました。
ここで火渡りの準備が整えられます。と言っても、真言宗醍醐派の行者たちの火渡りはかなり勇敢なので、この程度で大丈夫なのか? と心配になる程度しか整えません。塩船観音寺はその中でも別格本山ですから、半端なことは致しません。
護摩導師と四天王が剣を振りながら炎の周りを廻ります。結界の中の魔を追い出し、更に神聖な領域を創り出すイメージを受けました。自分がその中に入れていただく時には、このようにして創り出した聖域であることを意識しなければ、と思いました。
ここで行者たちによって護摩木が投げ込まれました。不動明王のご加護と功徳を受けて、私の祈願も成就しますように合掌して祈念しました。
また護摩導師が席について儀礼を始めます。既に地下足袋は脱いでいますね。最初に護摩導師が火渡りをしました。剣を片手に不動明王の如き姿で渡ったのですが、渡り切った後、祭壇正面に立てられた長い竹を居合斬りで真っ二つに切ってしまいました。これには観衆からどよめきと歓声が沸き上がりました。「真剣だったのかよ」と左にいた男性がつぶやきましたが、私は「切る必要あったのかな?」と思いました。
その後は四天王役の行者から順番に火渡りを行います。観衆の評価は駆け抜ける行者に低く、ゆっくり歩く行者には高くなります。立派な体格の男性行者が「やぁ~」と声を上げて駆け抜けると失笑が沸き、若い女性の行者がザックザックと踏みしめるように渡ると、観衆から歓声と拍手が送られました。
次にこの後授与される魔除け札が火渡りします。護摩壇の周りを廻るのを見たことがありますが、実際に渡るのは初見です。魔除け札の神輿は2基あって、それぞれ3周して売り場へ直行していました。
ここで更に炎の調整をして、一般衆生が火渡りできるようにします。至れり尽くせりの安全対策の中で火渡りさせてもらって、何が修行だと思うこともありますが、実際には思った以上に熱さを感じます。それも至れり尽くせりの結果ですが……。
さて、火渡りの入口に行くと案の定先の見えない行列ができていました。行列の最後尾に向かって歩きますが、かなりの長い列でした。それでも高尾山薬王院の数時間待ちを経験しているので、大したことはありません。
並ぶこと45分で先頭に到着しました。靴を脱いで靴下脱いで、裾を捲って、帽子をとって、行者さんに足元に喝を入れてもらって、いざ火渡りです。足元はきれいになっているので熱くありませんが、両側はまだ火が燃えていますから、熱風に包まれます。不動明王の加護があらんことを願いながら渡り切り、正面の祭壇と不動明王に一礼して、私の今年の火渡りが終了しました。
ウエットティッシュを持参したのですが、これは正解でした。足拭き用の普通のタオルが100円で売っていました。高尾山薬王院だと高尾山口駅の温泉がウエットティッシュを配ってくれますが、そんな恵まれたところばかりではないだろうと、ウエットティッシュを持参していました。
数時間前とは少し違う自分になったつもりで、境内を歩きます。せっかくなので一番奥の高台の上から境内を見渡していた平和観音像まで行ってみましょう。
でかっ
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