寺社探訪

寺社探訪とコラム

「遺影写真はゴスロリ」

自分のお葬式は自分の思い通りにしたいですし、どんな生き方(死に方)をしても、自分にはその権利があると思いますよね。昨今はエンディングノートも普及していて、自分のお葬式はこんな風にしてほしいという想いを残すことも多くなったのではないでしょうか。実際にはそれを受けた遺族の意思でお葬式は行われます。私が経験してきた中で、印象に残る「思い通りにしたい」をご紹介しましょう。

 

とある女子大学生が亡くなった際、「私のお葬式は24時間やってほしい」という言葉を遺しました。アルバイトをしている友達にも来てもらいたいから、という理由らしい。そもそも通夜は「夜を通す」と書く通り、一晩中故人を偲ぶ訳ですが、ごく近しい親族だけが線香を絶やさないように番をするようなお話です。24時間一般弔問客を迎えるお葬式をしたいと言っても、式場を貸してくれたり、立ち会って施行してくれる葬儀社はほぼ無いでしょう。たとえ自宅でやったとしても、近所迷惑になってしまいます。

喪主である父親は、私の経験上、最も唯我独尊な職業のひとつである大学教授です。喪主と葬儀社の担当者の分かり合えない打ち合わせの結果、無宗教葬儀で行い、通夜は式場設営が完了次第始まり、式場が借りられるギリギリの21時半まで、告別式は朝8時から出棺時間の12時までということになりました。

さて、私の担当は司会進行なのですが、担当者が喪主と理解し合えないので、どんな式次第で進めていくか、ほぼ私に丸投げ状態です。これだけ長時間の式次第をどうするか、喪主と打ち合わせをしましたが、「何もしなくていい。来た人に自由に過ごしてもらう」という考えでした。開式の辞や黙祷、喪主の挨拶、故人の経歴紹介、弔電・弔辞もお別れの言葉も、焼香も献花も型通りのことは一切したくないと言うのです。

遺族と一般弔問客の意識の差があるので、遺族が思うような葬儀になるかは難しいですが、私自身は遺族のやりたいことを尊重したいので、「自由に過ごす」方向で進めることになりました。常識人の葬儀社の担当者はあり得ないとイライラしていましたが、決定権を持つ喪主は他人の意見を聞くような性格ではないので、致し方なしです。喪主から預かったCDには、友人が編集した葬儀には不相応に思える曲が満載でした。私的には筋肉少女帯の「釈迦」が入っていてテンション上がりました。しかし、担当者は「こんなCD流せない」と真剣に悩んでしまいます。「このモーツァルトだけ流せるから、その1曲をリピートして」と指示されました。

 

親戚や弔問者が集まり始めましたが、皆さん喪主の考えを理解できないので、何も始まらないお通夜に戸惑うばかり。「どこにいれば良いですか?」「何時から始まりますか?」という質問に、「ご自由に……」と答えます。喪主のイメージでは、弔問客は祭壇に向かって故人と対面したり、仲間同士で思い出を語ったり、思い思いの行動で時間を過ごして帰るという自由な式が展開されるはずでした。いつも思うのですが、葬儀のように長い時間をかけて培われてきたような伝統儀礼を、たった一人の価値観で覆そうとしてもなかなか難しいです。

するとそんな中でも趣旨を理解した人がいて、進行も何もない中、祭壇の故人に向かって突然弔辞のように語りかける人が現れました。内容から高校時代の担任の先生のようでした。その後、触発された友人と思われる若者たちが、祭壇に向かってお別れの言葉を順番に語り出すという展開になりました。

そこそこ人が集まったところで、結局お焼香をすることになりました。喪主は型通りにやりたくないので献花など用意しておらず、葬儀社側で焼香を用意していたのです。さすがに焼香も献花も無しでは、喪主が良くても弔問者は腑に落ちないです。何も案内しなくても、既に自然発生的に行列ができていました。皆さん、何の列だと思って並んでいたのでしょうか。

 

希望者だけどうぞと焼香が始まりましたが、結局全員お焼香していました。すると、友人の方から、何で他の曲は流さないんですか? とクレームが……。この頃には葬儀社の担当者も根負けしていて、クレームさえなければどうにでもなれという状態だったので、早速筋肉少女帯の「釈迦」を流しました。「♬ 結構いい人だったからっ」と、洒落にならない歌詞が通夜式場に響きます。担当者は項垂れていましたが、喪主はこんなカオスが結構お気に入りのようで、満足しているようでした。

慣例通りの通夜式・告別式を1時間ずつというお葬式の常識を無視して、このように長時間枠で好きな時に好きなだけ居て、好きに過ごしてくださいというコンセプトは、事前準備さえしっかりすれば、それなりに良い葬儀になりそうです。ただ、迎える側の疲労は大きいと思いますが。

故人が遺したノートに書かれた一風変わったお葬式を経験してみて思ったことがあります。亡くなる前に友人のバイトの時間まで心配しなくても、友達なんだから都合をつけて駆けつけてくれますよ、ということです。

 

(※ 写真はイメージのためのフリー素材です)

 

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