寺社探訪

寺社探訪とコラム

「火渡り祭に行く2026 (高尾山薬王院)」

 

昨年は塩船観音寺、一昨年は川崎大師でしたが、今年は久々に高尾山薬王院にやって参りました。高尾山の火渡り祭のレポートも3回目になります。今回は初参加してみようかなと思っている方々に向けて、火渡り祭の会場の雰囲気や参加方法(簡単)を中心にレポートしたいと思います。

京王線高尾山口駅を降りると、駅前広場は既に多くの登山客で賑わっています。そこから人の流れに乗ってケーブルカーの駅の方へ向かうのですが、火渡りまつりの会場は交通安全祈祷殿なので、↑ の左の橋を渡って甲州街道に出ます。多くの方々は登山のために右の道をまっすぐ進むので、要注意です。

交通安全祈祷殿の大きな駐車場が会場となっています。火渡りまつりは13時から行われるのですが、到着時の時刻は9時過ぎです。既に多くの人が集まっていますが、これは限定御朱印や火渡りの整理券を求める人たちです。

高尾山の火渡り祭は参加したい人は全員無料で参加できます。ただ、日本一登山者の多い山ですので、1000人以上が火渡りの行列に並びます、そこで、色分けされた整理券が配られています。

いただいた整理券は緑色でした。手首に巻く仕様になっています。紫 → 緑 → 黄の順で配布されているので、2番目のグループです。せっかく早く来たのに、紫のグループに入れず残念です。「火生三昧」というのは、不動明王が入る境地のようなもので、身から出る火炎で一切の魔や煩悩を焼き尽くすというものです。火生三昧=火渡り修行という意味合いもあり、多くの火渡り修行の儀礼は、不動明王を本尊に行われます。高尾山の火渡りは飯縄権現を本尊に行われますが、飯縄権現の本地仏(本来の仏の姿)が不動明王とされています。

こちらでは「撫で木」が授与されていました(有料:200円)。古来からの仏教や修験道の法則に従い、火を焚いて祈祷することを護摩供と言います。中でも、火渡り祭のように野外でおこわなれる大規模な護摩供のことを柴灯大護摩供と呼びます。火を焚くための木を護摩木と呼び、護摩木が組まれたものを護摩壇と言います。「撫で木」は護摩木として柴灯大護摩供の儀礼の中で燃える護摩壇に投入されます。撫で木に名前と願いを記入して、体の悪いところに当て擦ります。それを係の方に預けておくと、行者さんが護摩壇に投げ込んでくれます。

渡火証が授与されていました(有料:300円)。これは当日限定販売で、このお札を持って火渡りするとお札のご利益が増すとされています。お守りのように持っておくものだそうです。ただ、渡火しなくても購入できてしまいます。他にも当日限定の御朱印や様々な授与品が置かれていました。私がよく購入するのは「御浄塩」(100円)です。本尊の飯縄権現によって浄められた塩ですが、これを手に持って火渡りすることで功徳が増し、その功徳を塩を撒いて回し向けるという考えです。自分の体や、家の周囲や駐車場にちょっと摘んで撒くと、何となく安心感を得ることができます。

火渡り祭の会場の周囲には既にシートが敷かれて場所取りされていました。仏教の神髄は欲を滅することにあると思っていますが、仏教の大きな儀式でその欲をむき出しに示しているように私には見えてしまいます。

出店も並んでいますが、まだ朝早いので準備段階です。ただ、この周辺には高尾山の観光客向けの団子屋やら蕎麦屋やら、おいしいそうなものを売っているお店がたくさんあるので、そちらで食べる方の方が圧倒的に多いと思います。

交通安全祈祷殿では平常通り自動車のご祈祷が行われます。祈祷殿の本尊として飯縄権現がお祀りされています。高尾山薬王院は開山当初(744年)は薬師如来を本尊としていましたが、中興の祖である俊源が京都の醍醐寺(現:真言宗醍醐派総本山)からやってきて薬王院の貫首となり、それ以来は飯縄権現を本尊としています。醍醐寺は山岳信仰の要素が非常に強く、金峯山とも深い関係にあります。薬師如来も飯縄権現も薬王院の本尊として大本堂にご安置されていますが、色々な行事を見ていても、薬王院の本尊として扱われているのは圧倒的に飯縄権現のようです。火渡り祭でも式壇の中央に飯縄権現がいらっしゃいます。飯縄権現は山岳信仰から発祥した神仏習合の神で、白狐に乗った烏天狗の顔をした不動明王のような様相です。交通安全祈願殿でその様相を見ることができますので、これから行われる儀式の本尊がどんな姿をしているのか、見ておくのも良いと思います。

さて、高尾山の山頂まで登って帰りはケーブルを使いました。現在12:30頃です。こちらはケーブルの清滝駅の横にある薬王院別院の不動院です。火渡り修行に参加する僧や行者はこの不動院に集合して、ここから出発して自動車祈祷殿に向かって行列を組んで進みます。

私は毎年この時期に交通安全の御守りを買い替えるので、山中の薬王院で古い御守りを納めて、新しい御守りを授与していただきました。毎日車を運転する職に就いているので、こういうことを怠ると不安になってしまいます。新しい御守りをいただいて、安全運転に対する気も引き締まる思いです。さて、開始まであと30分です。このタイミングで配られていたのは黄色の整理券でした。

こちらが開始30分前の護摩壇のある会場付近です。まだそれほど集まっていないように見えますね。私も見物に良き場所を探してみようと思います。ちなみに結構強い風がこの写真( ↑ )の左から右に吹いていますので、左側に陣取る方が良いと思われます。

お昼時ですが、屋台はご覧の通り大盛況という程ではありません。結局私は風下の方に陣取ることになりました。こちら側には報道陣のスペースがあるので、水色のジャンパーの方々が左右にウロウロするからか、逆側に比べて空いていました。この立ち位置から見た火渡り祭の会場を右から左に4分割して撮影してみた( ↓ )ので、どうぞご覧ください。

こんな感じです。外国人向けの英語での場内アナウンスで、これは仏教に基づく伝統的な儀礼であって、単なるパフォーマンスではありませんと流れていました。高尾山修験道と呼ばれる一派の修験道の法則によって儀礼が進行されます。どんな道具をどのような意味で使っているのか、この儀礼にはどんな目的があるのか、ということを知って参加することは、何も知らずにパフォーマンスを見物することに比べて、その意義が大きく異なると思います。

観光寺院で手を合わせる人々を見ていてよく思うのは、どんな寺院でどんな仏様に対して願いを伝えているのか、わかっているのかな……ということです。わざわざ高尾山まで来て、長時間並んで火渡り修行に参加するのだから、最初は興味本位や観光気分でも、願いや祈りを一方的に押し付けるだけではなく、寺院や儀式について知って、敬虔な気持ちを持ってほしいなと思います。

遠くの方からほら貝の音が聞こえてきて、それがだんだん大きくなり、行者たちが近づいてくるのがわかります。行者さん方は先ほどの不動院から行列を組んで、まずは自動車祈祷殿の本尊である飯縄権現にお参りをしてから、火渡りの会場に現れます。入場の際に「阿字門」という儀礼があります。ここでは修験道の先達(師)を迎え入れるのですが、高尾山修験道(大本山薬王院)の他に、当山派(奈良金峯山を中心とした真言系修験道:京都・総本山醍醐寺)や狸谷山(京都・大本山狸谷山不動院)からの行者もいらっしゃるとのことでした。

こちらが式壇中央にいらっしゃる飯縄権現です。火炎を身にまとい剣と羂索を手にしたまさに不動明王の姿なのですが、烏天狗の様相で白狐に乗っています。

修験道の行者の中には僧籍(僧としての資格)が無い人もいます。高尾山や金峯山で行者としての修行をすることと、僧になるということは別のことです。先述の通り高尾山薬王院の本尊は現代では薬師如来よりも圧倒的に飯縄権現です。飯縄権現は神仏習合の神なので、薬王院の境内には飯縄権現を祀る神社(本社)が本堂とは別に存在しています。

護摩壇に火が入るまでに様々な儀礼があるのですが、こちらは( ↑ )斧で護摩壇の木を伐り出す作法を行っています。残念だったのは、私の近くでシートを広げてキャンピングチェアに座って見学していた数名の日本人の方々が、水割りを飲みながらおつまみを手にこの一連の儀式を鑑賞していたことです。薬王院の僧侶や行者の皆さんは、本尊の飯縄権現の功徳力によって、多くの人々の平和と健康、様々な願いが成就するためにと、真剣にこの儀礼に取り組んでいます。

ちなみにこの朱色の衣を着た方が、この柴灯大護摩供の導師を務めている高尾山薬王院の佐藤秀仁貫首です。薬王院は真言宗智山派の中でも、全国に3つしかない大本山のひとつです。(他は成田山新勝寺と川崎大師平間寺)その大本山の管首に50歳で就任した方です。

柴灯大護摩供の一連の儀礼作法の後半、火を入れる前に行われるのが、「願文」という儀礼です。これはこの会場に集まった皆様の願いを、本尊の飯縄権現に述べる儀礼です。つまり私たちがこの火渡りに参加して願いとして心に思っていることを、薬王院の僧が代わりに伝えてくれるものです。

背後に映っているパイプ椅子の貴族席に座っている方々は、薬王院の檀家の上層部の他、この柴灯大護摩供に特別な壇木を奉納した方々です。この特別志納(10.000円)をすると、芳名入りの大きな檀木が護摩壇に置かれ、特別なお札を授与され、更に薬王院の参道に芳名が一年間掲示され、火渡り祭当日は「願文」で名前が読み上げられ、貴族席に座ることができます。持てる人には厭らしいほどに至れり尽くせりの待遇となります。

火が入ると、大方の予想通り煙がこちらにやってきました。柴灯大護摩供では生葉(ヒノキの葉が多い)を燃やしますから煙は仕方ありません。持たざる私は煙の直撃を受けつつ、「いつかは貴族席」と、昭和の自動車のCMのようなことを思い浮かべていました。

これは梵天札という赤いお札を球体状に刺したもので、行者たちが神輿にして担ぎます。梵天札は特に火伏せのご利益があるとされていて、火渡り祭の代表的な授与品のひとつです。ちなみにひとつ500円です。他の寺院の火渡り祭だと、担いだまま火渡りをしたり、周囲をぐるぐる回ったりするのですが、高尾山の場合は則退場という感じでした。

護摩壇が轟々と燃えてピークに達しています。観客席まで強い熱気が伝わって顔が赤くなる程です。行者さんたちが水をかけるのですが、風も強くかなり危険だし、何よりめちゃくちゃ熱いと思います。

そんな中、女性の行者さんが梵天加持に回っていました。とにかくすごい熱気で、行者さんも風に揺らめく炎が真後ろにあるため、必死の形相で素早く加持をして回ります。ただ、何をしているか解説が無いので、加持を受けているはずの観客席の皆さんがほぼ無視状態で残念な感じでした。

導師を務める貫首様は護摩壇の正面に移動していて、様々な作法を行っています。修験道の護摩行は、山中で修行する行者が、このようなひとり分の場所を作って一人で行う修法だったと思われます。隣で法衣を着た子どもたちが熱さのあまり網笠に隠れているのがかわいらしいですね。

行者が長い棒で護摩壇を叩きながら崩し、水をかけて火を落としていきます。護摩壇は崩れましたが、まだまだ周囲は熱気に包まれています。以前、谷保天神の「おかがら祭」のレポートでも書きましたが、火が燃える様子は、人間の心の深い部分に作用すると言いますか、説明できない影響を及ぼされている感じがします。

ここで行者さんたちによって、撫で木が投入されます。ここから更に長い竹で叩いて火を落とし、導師が護摩壇の正面に立って「火生三昧表白」を読み上げます。表白というのは仏教用語で、その趣旨を述べることです。簡単に言うと、ここに神聖なる領域を作って飯縄権現を祀り、高尾山修験道の修法に従って儀礼を行い、世界の平和や衆生の願いを成就せしめんと火生三昧=火渡りの行を謹修するということを述べます。

剣を抜き、導師が火渡りをします。これは不動明王が手に持っている智剣と同じですね。薬王院の場合は飯縄権現です。身から出る火炎で一切の魔や煩悩を焼き尽くすという不動明王(飯縄権現)が入る境地である火生三昧(=火渡り)を体現すべく、剣を抜いて進みます。

行者が次々と渡り始めます。行者が全て渡り終えると、貴族席の方々が火渡りをして、次に整理券を持った人たちが色順(紫 → 緑 → 黄)に案内されます。最後に整理券を持っていない人たちが火渡りをします。これ、火渡りだけで3時間は超えるので、なるべく早い整理券を持っておくことが良いのですが、朝9時過ぎでも緑のグループでした。ただ同じ色の整理券を持った人たちの中での順番はは先着順で、おそらく緑の券を持った人たちだけで数百人はいます。

ここが行列の最前列。整理券の色別に紐で各レーンに仕切られています。

緑のレーンの最後尾に移動して並びました。前に凄い人がいますけど、最前列の方の人は、火渡り祭が始まる前から並んでいました。私は行者の火渡りが始まったタイミング(14:40頃)で並びましたが、緑の整理券のレーン全体のちょうど真ん中くらいでした。ここからは火渡り以上の苦行となります。とにかく全く進まない行列で立ち続けること1時間以上。朝9時に整理券をもらい、山頂まで登って下りて、2時間経ちっぱなしで儀式を見物し、そこから更に1時間以上並ぶという過酷な修行です。

不思議なのは周囲に外国人の方々がかなり多かったことです。宗教的な側面では、伝統行事への理解や、自分の宗教との接点や相違点を体験する意味合いなど、参加することでプラスになることも多いと思うので疑問はありません。ただ、この、長時間秩序正しく並ぶという行為を、外国人の皆さんはどう思っているのかなと感じました。

待つこと1時間を過ぎると、ようやく行列も動き出し、会場が見えてきました。火渡りは2列に分かれて同時に行われています。裸足になってズボンの裾をまくって、行者さんに掛け声とともに背中をポンと叩かれ歩きます。今年はちゃんと靴を入れる手提げ袋を持参したので、袋を肘にかけて合掌して渡りました。行者さんが整備してくれた上を歩くので熱くも無いのですが、この火渡りで私についた悪いモノが焼け落ち、迷いも憂いもなく強く過ごせるように、そんなことを願いながら歩きました。

火渡りを終えると、この聖域の式壇に安置されている本尊、飯縄権現にお参りします。お賽銭箱が用意されていたので、少し納めて合掌しました。最後に薬王院の佐藤貫首のお加持を受けます。何百何十何人目だかわからない私の肩に法具を当てて、「えいっ」と気合の入ったお加持をしていただきました。合掌してお礼を言うと、「ありがとうございました」と言われました。

ちなみに汚れた足を拭くのは、ウエットティッシュが配られていますので、特に用意しなくても大丈夫です。高尾山口駅に接している天然温泉「極楽湯」さんの提供だそうです。全てを終えたのは16時ですから、私にとっては一日がかりの火渡り修行という感じでした。ケーブルカーやリフトを使えば、時間の調整もできますし、山に行かないなら、お昼からでも十分満喫できます。待ち時間にどの程度耐えられるかを考慮して、それぞれの楽しみ方を計画してみてください。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

にほんブログ村 歴史ブログ 史跡・神社仏閣へ

神社・仏閣ランキング