お葬式の司会者は司会だけではなく、葬儀の運営に関わる設営撤去や案内業務もしますし、葬儀の担当者が司会をすることもあります。司会専業で生計を立てている方はひと握りだと思いますが、フリーランスの方、派遣事務所に所属している方、葬儀社の正社員、パート・アルバイトなど、様々な方がお葬式の司会をしています。今回はそんなお葬式の司会者は、どんな七つ道具を持って仕事に臨んでいるのか、あくまで私の経験からなのですが、まとめてみたいと思います。
メモ帳
メモを取るよりも、メモを見るための道具として使います。お葬式の前には、導師を務める僧侶と打ち合わせをします。お焼香をするタイミングなど、僧侶から指示されます。中には細かいこだわりをたくさん指示されることもあり、実現が難しいことを言われたりもします。
私の活動エリアにある寺院の僧侶とは、何度も顔を合わせます。多ければ週に2度3度と、お葬式は時を選ばす訪れます。顔見知りになり、慣れてくると打ち合わせも「いつも通り」と言われるようになります。しかし私は日々違う寺院の僧侶のお葬式の司会をしているので、「いつも通り」と言われても覚えてないのが現実です。そこで、また次の機会がありそうな寺院の僧侶との打ち合わせ内容は、整理して司会用のメモ帳に書き写します。私の司会用メモ帳には、近隣の100ヶ寺ほどの寺院の打ち合わせ内容が記録されていて、ほぼ打ち合わせ無しでも大丈夫です。しかし、こちらから「いつも通りですか?」と聞くと、激怒する僧侶が多いので要注意です。僧侶はプライドが高く気が短い人が多いのです。メモを駆使して慣れてくると僧侶との打ち合わせは1分もかからなかったり、ほぼ雑談だったりと、自分の仕事を楽にすることができますし、僧侶からの信頼も得ることもできます。
CD
お葬式の式場で流れている音楽は、大抵は葬儀社にあるCDのものです。東京では公営式場や寺院式場が多いので、CDを持ってくるのを忘れてしまうこともあります。そんな時のためにCDを何枚か常にカバンに入れています。葬儀に使えるような音楽なので、インストゥルメンタルやピアノ演奏の歌謡曲などです。かつて「亡くなった母が冬のソナタの大ファンだったのですが、主題歌のCDありませんか?」と言われ、たまたまカバンの中のCDに入っていたことがあります。
本来なら著作権のあるCDをお葬式で流すと、著作権料を払わなければならないので、禁止事項ではあります。著作権警察に突っ込まれた時のために、著作権フリーのCDもカバンに入っています。
シャープペン・消しゴム
弔電を読む際に、フリガナを振るのに使います。弔電の送り主は、遺族にとって大切な方やお世話になった方なので、名前を読み違えることは司会者としては大きな失敗です。また、オリジナルの文面だと、他の人の名前や地名や団体名が本文にも含まれていることがありますので、遺族との打ち合わせで必ずチェックします。まず間違いないだろうと思っても、人名はこちらが想像もしない読み方をするものもあります。また、弔電を読む順番も間違えると失礼にあたるので、打ち合わせの際に弔電に番号を振ります。書き込んだ弔電は、葬儀が済んだ時に消しゴムで綺麗に消して遺族にお返しします。付箋を使う人もいると思いますが、一長一短がありますので、良い方法を模索する感じです。
カード
司会をする際に必要最低限の情報を記入した紙です。その紙を見ながら話しますので、あまり見栄えの悪いものでは困ります。私は受験生の頃によく使った京大式カードのようなものを使っています。書く内容も書く位置も、毎回同じにしています。まずは没年月日を年号から書きます。その下の段に故人名、その下の段に寺院名を紹介するままに書きます。例えば「○○家菩提寺、天台宗、○○山 ○○寺 ご住職様」という感じです。その下の段に喪主の名前、その下の段には、代表挨拶をする人の名前を書きます。書く内容は以上です。よく、バインダーで情報管理している人がいますが、私は大規模や中規模の自宅葬の司会をよくしていたので、バインダーだと邪魔なんですよね。ポケットに入るサイズが好ましいのです。
また、会葬礼状を一枚拝借して使用している司会者も見かけます。故人名や喪主名が印刷されているので使いやすそうに思えますが、実際には司会とは関係ない文面の中に書かれているので、見やすいとは言えません。それに親族や会葬者から見えるので、あまり良い印象はないです。自分が使いやすい場所に必要な情報を書き込むというのが、私の選んだ最良の方法です。故人や喪主、寺院の名前くらい暗記できると思っても、緊張する場面ではど忘れして思い出せなくなることがありますから、このカードは毎回必ず用意しています。また、これらは個人情報ですので、葬儀が終わればシュレッダーにかけて処分します。
輪ゴム
輪ゴムもカバンの中に入っているもののひとつです。弔電が入っていたビニール袋を大切に残す人がいますが、お葬式の間はいちいち袋に入れたりしません。以前、ビニール袋を捨てたら、葬儀が終わって1週間ほどしてから遺族にビニール袋を返せと言われたことがあります。それ以来、何でも遺族に返すようにしているのですが、バラバラにすると邪魔になるので輪ゴムでまとめています。その他、輪ゴムがあると便利なことはよくありますので、いつもカバンに入っています。
お茶
お茶を使って何かする訳ではなく、喉を潤す水分はいつでも飲めるようにしています。緊張すると喉が渇きますし、ガスガスの声では聞き取り辛いですから、なるべく良い声が出せるようにしています。のど飴を持ち歩いている方もいると思いますが、飴を舐めるタイミングがなかなかありません。いつでも飲めると言っても、親族や会葬者から見えるところには置いていません。バックヤード的な場所に置いていて、気になったら飲むようにしています。私的には麦茶が一番良くて、次に水です。スポーツドリンクや甘いジュースは良くないです。
のり
海苔ではなく、糊です。何に使うかと言いますと、白木の位牌に戒名紙を貼るのに使います。葬儀業界の慣例として、葬儀に使用する白木の位牌は、葬儀社が用意するものとなっています。変ですよね? 位牌には寺院の住職がつけた戒名が書かれ、祭壇にご安置されます。通夜の日までに葬儀社が寺院に届けるか、当日寺院に真っ新な白木位牌を渡して、僧侶が持ってきた白木位牌と差し替えるかになります。いずれにしても葬儀社が負担するものと決められています。葬儀業界においていかに寺院のヒエラルキーが高いかがよくわかります。中には、戒名を位牌サイズの紙に書いて、葬儀社に渡す寺院もあります。戒名紙と呼んでいますが、戒名紙を白木位牌に貼って祭壇に安置します。この時に糊が必要なのです。
その他
頻度は少ないがあると便利なもの挙げてみます。
バンドエイド
お葬式の式場で血を流しているのは良くありません。大切な方の死に直面したばかりの遺族の心情は、私たち以上にそういうことに敏感です。しかし、会葬カードや礼状などでスパッと指先を切ってしまうことがあります。バンドエイドは常備しておくと良いです。
バインダー
無宗教葬儀や神葬祭など、多くの資料を見ながら進行する場合、バサバサと資料を扱うよりは、バインダーに纏めているとスマートに見えます。個人情報を含む重要な情報が書かれているものなので、資料が多くなるようなら、バインダーを用意するようにしています。
お葬式でなくてもいつも身に着けていますが、これが司会をしていて結構使うことがあるのです。最もよく使うのは、弔電の名前の検索です。仕事関係のお付き合いですと、苗字は分かるが下の名前までは分からないという方が多いです。それでも、関係者が参列する中で、社長の名前を読み間違える訳にはいきません。最終手段では参列者に丁寧に説明して教えていただくか、電話して聞くこともできますが、できればこちら側で解決したいです。そんなときに様々な関連ワードで検索すると、誰もが知るような大企業でなくても意外にわかるものです。また、スマホは写真が残せますので、覚えておいた方が良い場面で、それらを記録することで仕事の質が上がります。
不祝儀袋
お葬式の式場で、親族や会葬者から求められることがあります。例えば葬儀のお香典とは別に初七日法要のお香典を出すしきたりがある親族のお葬式で、外戚の方で知らずに用意してなかったとか、急遽電話で知人から香典を出しておいてと頼まれたとか、そんな理由で需要があります。売店があるような式場なら良いですが、コンビニに行ってくださいとも言い難いので、カバンにいつも入れておくと、困った人を助けることができます。
マスク
現在では少なくなりましたが、それでも周囲が皆マスクをしているのに、自分だけしていないと不安になるものです。これも不祝儀袋と同様に、困っている人を助けることができます。
私のカバンの中には7つ道具どころか、カッターやハサミ、スケールや画鋲やガムテープなど十七つ道具くらいは入っていました。意外ですが、Scotchの超強力両面テープは結構役立ちました。会葬者の靴が壊れることがよくあるんですよ。
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