曇天のJR京都駅から地下鉄に乗ってスタート地点に向かいます。この「京都大廻り」企画は、一応地図を見ながら進みますが、京都大廻りの映像を見た曖昧な記憶と、自分が立ち寄りたい場所も付け足して進んでいく、まさに「俺なりの」京都大廻りになりますので、ご了承くださいませ。
比叡山
地下鉄烏丸線「国際会館」を降りて、東に向かって歩いていますと、鴨川上流の高野川を渡る花園橋を通ります。すぐ後ろに比叡山が見えています。思ったよりも近くに見えて驚きました。学生時代に比叡山に行ったことがありますが、夜中に走り屋のバトルを観に行ったので、延暦寺には全く触れていません。寺社探訪というブログを書いているので、そのうち訪れたいと思っています。
京都ならではの狭い道を進みます。私は軽貨物配達の仕事もしているので、京都で軽貨物ドライバーをしている方々の苦労を思わざるを得ません。狭いだけでなく、観光地に向かう人々がうじゃうじゃいます。立ち入りできないエリアも多いでしょうし、きっと他の地域の何倍も苦労が多いと思います。
天台宗 赤山禅院
スタートは無動寺じゃないのか? という声は風の彼方へ追いやって、かつて、光永圓道大阿闍梨が回峰行を行っているTV映像で、比叡山から降りてきてこの赤山禅院の前でお加持をしているのを見たことがあります。千日回峰行は7年かけて行われますが、少しずつ内容が苛烈になっていきます。最初は比叡山の山内30kmの回峰行ですが、次に赤山禅院まで下りてきて、花を供えて戻るという60kmのコースになります。これを「赤山苦行」というそうです。最後は赤山禅院から京都の町を巡礼する84kmのコースになります。いわゆる「京都大廻り」です。
赤山大明神の提灯が下がっていて、神仏習合の神様が祀られているのだとわかります。赤山禅院を建立したのは第4代天台座主の安慧ですが、これは第3代天台座主の慈覚大師円仁が遺言によって命じました。円仁は遣唐使として五台山巡礼を果たし、天台宗の秘法や経典を数多く日本に持ち帰り、日本の仏教の発展に大きく貢献した僧です。円仁の遣唐使五台山巡礼は10年に及び、困難の連続だったとのことですが、その途中で赤山という土地で赤山の神々に五台山巡礼の完遂を願い、赤山の神々に守護されたのだそうです。そのために円仁がこの寺院を建立するように遺言を残したという訳です。
「皇城裏鬼門」と書かれています。平安京の裏鬼門にあたることから、方除けの神として信仰を集めたそうです。天台宗の寺院ですが、まるで神社の拝殿です。中央にご神体の鏡がありす。明治維新までの天台宗は山岳信仰と仏教と神道が習合していたので、まさにその様子が伺えます。赤山禅院は千日回峰行と関りが強く、赤山禅院の住職は千日回峰行を満行した大阿闍梨が務めているそうです。
この先京都の町を歩いていると、このタイプの石像を数多く見ることになります。この前掛けに祈願や祈願主の名前が書かれて奉納されています。
鷺森神社の鳥居前を通過します。さすがに京都は寺社仏閣の数が多くて、歩いていると右に左に寺社が現れる状態です。ひとつひとつをゆっくり見学したい気持ちは山々なのですが、通過して先へ進みます。
京都の住所は独特で、中心部の住所は通りの名前で表され、このあたりの住所は町名の前にエリア名のようなものが付きます。修学院離宮があるこのエリアは、修学院○○町となっているのですが、このあたりから一乗寺○○町というエリアに入っていきます。ちなみに町名にも駅名にもなっている一乗寺ですが、南北朝時代に廃寺になっていて、現在は跡地に石碑が建っているのみです。
天台真盛宗の西円寺の前を通過しました。天台真盛宗は天台宗の一派で、滋賀県大津市坂本の西教寺を総本山とする宗派です。東京都杉並区に東京別院の真盛寺がありますが、檀家以外立ち入り禁止となっています。
曹洞宗 詩仙堂(丈山寺)
さて、やってきたのは詩仙堂です。ここは元々石川丈山という代々徳川家に仕える武将が、隠居の際に造営した山荘です。丈山は江戸初期の漢詩の代表的人物で、この山荘で漢詩三昧の生活を送りました。後に寺院化され、丈山寺と呼ばれます。
丈山が林羅山と協議して選出した中国の各時代の詩歌の大家36人を狩野探幽が描いた肖像が、詩仙の間の四方の壁に掛けられています。その詩仙の間と庭園を有料で拝観できるのですが、この企画は京都大回りなので、立ち寄る度に建物や庭園を細かく拝観していたら、きっと何週間もかかってしまいます。
建物の構造を外から眺めていても、石川丈山が一筋縄ではいかない芸術家肌の人物なのではないかと想像できます。
一乗寺下り松
漫画「バガボンド」の知識しかありませんが、宮本武蔵が吉岡一門数十名と戦ったとされる場所です。ここにある松は五代目で、初代の松は詩仙堂の隣にある八大神社で御神木として祀られています。八大神社は武蔵好きの聖地になっていて、観光客で賑わっていました。
白川通を歩きます。比較的広い道路で、京都っぽさはありませんが、途中に京都芸術大学がありました。関東の方はピンと来ないかもしれませんが、京都は学生の街という一面もあります。私も大学生の頃に同級生が京都の大学に複数いて、よく遊びに来ていました。
こちらは日本キリスト教団京都西田町教会です。少し細い道に入りまして先を目指します。回峰行の行者は、比叡山の山中を歩いて回った後に、この京都大回りを歩くそうですが、赤山禅院からここまででも、歩いてみると結構距離が長くてびっくりします。
天皇の御陵の道標です。大正天皇と昭和天皇の御陵は東京にありますが、天皇の御陵は関西、特に京都奈良に集中しています。
天台宗 真正極楽寺(真如堂)
住宅街を抜けて北側の入り口から入ったのですが、想像以上に広くて立派な寺院です。門跡寺院でも大本山でも別格本山でもないのですが、そんな寺格でもおかしくない雰囲気が漂っています。境内に塔頭寺院が8カ寺もあり、堂宇も数多く、文化財に指定されている建築や教本や仏像なども多く、大寺院の様相を呈しています。
雨が降る中の訪問でしたが、ちょうど私が訪れたときに、関係寺院の僧侶が集まる会合が行われていたようでした。東京も同じですが、近ごろの僧侶はメルセデスやBMWには乗らず、コンパクトな外車に乗るのが流行りのようです。大きな会合のようで、続々と僧侶が集まっていて、お勤めの若いお坊さんが本堂前でお出迎えしていました。そんな中ひとり部外者の私が境内をウロウロしているのも気まずくて、少し離れたところから本堂に向かって手を合わせ、そそくさと立ち去ることにしました。
真如堂というのは真正極楽寺の本堂の名称です。本尊は阿弥陀如来で、11月15日に年に1度のご開帳が行われます。慈覚大師円仁作の阿弥陀如来は、「うなずきの弥陀」と呼ばれています。円仁は修行僧のための本尊として完成させようとしたところ、阿弥陀如来が首を振り、それでは全ての人々、特に女性を救ってくださいと告げると、三度頷いたのだそうです。
山門の外にも塔頭寺院があり、そこに稲荷社がありました。荼枳尼天を祀っています。日本では稲荷神=荼枳尼天とされていて、明治維新後は神社で祀ると稲荷神社、寺院で祀ると荼枳尼天と区別された経緯が多く見られます。元々は同じ稲荷信仰です。
隣に青面金剛を祀るお堂がありました。青面金剛は日本では庚申信仰で祀られている仏教の神です。庚申信仰は庚申(かのえさる)の日に眠ると、三尸という虫が体内から出てきて、自分の罪悪を天の神様に告げ口するという変な信仰です。庚申の日は皆で集まって眠らないようにするというひねくれた対策を取ります。悪いことをしないようにしよう、とはなりません。これを18回続けた記念として、青面金剛像を彫った石像が庚申塔として建立されます。青面金剛は三尸を抑える神ですが、道祖神信仰とも習合しているので、道端や集落の入口に置かれることが多いですが、こちらではお堂を建てて祀っています。
浄土宗 金戒光明寺
少し歩くと、すぐに金戒光明寺の北門がありました。京都で訪れたかった寺院のひとつです。今年は九品仏浄真寺で行われた「お面かぶり」と東京国立博物館で行われた「法然と極楽浄土」を観に行く機会があって、浄土宗や阿弥陀信仰に対する興味が高まりました。
浄土宗では、京都四箇本山と呼ばれる重要な寺院が京都に4ヶ寺あります。また、総本山に次ぐ大本山と呼ばれる寺院が全国に8ヶ寺あります。金戒光明寺はその両方に位置付けられている寺院です。御影堂は法然上人がご安置されているのですが、他にも日本随一と称された文殊菩薩像や、遣唐使の吉備真備が中国から持ち帰った栴檀を刻んで造立した観音像がご安置されています。
広い境内には様々な堂宇や塔頭寺院の他、墓地も点在しています。中でも印象に残ったのは、墓地付近にたくさんの石仏や石像がご安置されていますが、その石がかなり年月の経過を表現していることです。角が崩れたり、平面であったであろうところが凸凹になっていたり、数十年数百年という時間だけが表現できる味というか重みを感じることができます。
山門は万延元年(1860年)の建立です。正面に後小松天皇による「浄土真宗最初門」という勅額があります。紛らわしいのですが、この浄土真宗は親鸞の浄土真宗とは全く違う意味で、浄土宗の真の教えみたいな意味です。比叡山で修行をしていた法然が、最初に建てた庵が金戒光明寺の原点なので、最初門と書かれたのですね。
「くろ谷」というのは、金戒光明寺の異名のようになっています。法然が比叡山の黒谷というところにいたとのこと。京都守護職の本陣となったことから、山城のような造りにも見えます。感じるままに階段を登ったり降りたり、良い時間を過ごすことができました。京都大廻りを完歩するはずが、金戒光明寺にずいぶん長居していました。さて、南に向かって歩きましょう。
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