寺社探訪

寺社探訪とコラム

「火渡り祭に行く」

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当日は日曜日だったので、駅前は観光客で賑わっていました。「火渡り祭」が行われるのは、高尾山中にある薬王院の境内ではなく、国道20号線沿いにある、薬王院の自動車交通安全祈祷殿の広場です。開始は13時ですから、10時頃に高尾山口駅に到着して、火渡りの申込みをして、薬王院本堂まで登ってお参りし、余裕があれば山頂まで登山して、お弁当食べて下山すれば、ちょうど開始時刻に間に合うという予定でしたが、豪快に寝過ごしてしまい、高尾山口駅に到着したのは12時15分頃でした。

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山に登っている時間はないので、自動車交通安全祈祷殿に直行します。きれいに参道が整備されています。

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広場に到着しました。思ったより賑わっています。火渡りに参加するには、事前に1万円のお壇木を志納するか、受付で先着1000名の当日整理券をもらうかの方法があります。整理券は朝の8時30分から配られていて、もう開会30分前だったのですが、ダメ元で受付に行ってみると、整理券をもらえました。整理券は受付順に5色に色分けされていて、私は当然後の方のグループで、一般参加者の火渡りが始まってから1時間くらい待つのではないかと教えていただきました。

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こちらが自動車交通安全祈祷殿です。中には金ピカの飯縄大権現と脇侍として大天狗小天狗がご安置されています。火渡り祭と同時に自動車祈祷も行われていました。

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会場は準備万端なようで、良き見物場所を求めてウロウロしてみます。毎回見物している方が、こんなに前でシートに座って見物なんて、コロナ前にはできなかったと言っていました。賑わっているように見えて、本来の人出には全然及ばないのですね。

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それでも出店がいくつか並んでいました。宮崎地鶏・やきそば・たこ焼き・七味唐辛子・五平餅などがありました。警察、消防、地元消防団も万一に備えてスタンバイしています。それから、いつも驚くのですが、外国の方々が本当に多かったです。たしか日本は鎖国状態で各国から非難されているのではなかったでしょうか? しかもアジアに限らず欧米や南米っぽい方々もいらっしゃいました。

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祭場の構図を見てみると、中央に火渡りの舞台となるであろう葉っぱが積み上がった祭壇があり、奥(正面)に薬王院の本尊である飯縄大権現と脇侍の大天狗小天狗の像があり、像の前に儀式用の式壇が組まれています。中央の祭壇を挟んだ反対側に、導師が座るであろう座と儀礼を行うスペースが用意されていて、左右の釜に湯が沸かされていました。

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遠くの方から法螺貝の音が聞こえてきます。いよいよ僧侶たちが向かっているようです。10分前になり、アナウンスと来賓の挨拶がありました。1万円のご壇木を志納された上級市民の方々は、写真( ↑ )の左側のパイプ椅子席に座っています。檀信徒の方々や講中の方々が多いようです。ご壇木は中央の祭壇に立てかけられていて、塔婆のように名前が記名されていました。いよいよ入り口( ↑  写真左上)に山伏の格好をした僧侶たちが集合し、儀式が始まります。

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薬王院HPの説明を事前に読んでいたので、何が行われるかは学習済みでした。見るのは初めてなので、想像以上のものもあれば、想像とは違う感じのものもありました。入口で阿字門(あじもん)という儀礼をしてから入場です。「阿字の子が 阿字のふるさと立ちいでて…」という弘法大師の有名な短歌がありますが、阿字というのは密教の特別な字で大日如来を表したり、森羅万象のような意味があったります。この門の内側=特別な森羅万象の世界に入る儀式だと思います。案内役の行者が大導師を場内に導きます。その後に山伏姿の行者たちが次々と入場し、配置に付きます。「僧侶」と言うよりは「行者」という言葉がしっくり来ます。真言宗智山派よりは、関東修験根本道場とか、高尾山修験道という言い方が多かったと思われます。

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こちらは火切加持(ひきりかじ)といい、写真( ↑ )中央の女性の行者さんが切火をしながら場内一周します。神道儀礼の修祓(しゅばつ)のような感じで、切火をしてもらう時は他の行者さんは頭を下げていました。切火って、舞妓さんの置屋や相撲部屋などでやるイメージでしたが、あのような験担ぎ的なものではなく、清めの儀式という感じでした。

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床堅(とこがた)という行だそうです。行者の心身=大日如来という精神統一をするのだそうです。

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神斧(しんぷ)という儀礼で、斧を持って柴灯護摩(さいとうごま)のための段木を切り出す作法だそうです。柴灯護摩とは、野外で行う大掛かりな護摩法要のことです。

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魔を断ち切る寶剣(ほうけん)です。

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法弓(ほうきゅう)と言い、場外の魔を場内へ入れないよう、矢を東西南北に放ちます。これが、花火みたいにピューッと上空に矢が放たれるので、観客席が盛り上がります。矢の先は丸いクッションになっていて、落ちてきた一本の矢を見物人たちが奪い合い、欲望むき出し状態となっていました。

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願文(がんもん)の儀礼では、衆生の願いを読み上げます。疫病退散も大声で唱えていました。全世界の願いですね。祈願の後に、おそらく1万円のご壇木を納めた方々だと思うのですが、特別な芳志をした方々の芳名を読み上げるということをしていました。これが全員の名前を読んでいるのだと思われ、いつ終わるとも知れない長い巻物を持って、相当な時間絶え間なくて大変そうでした。「田中〇〇殿、、ハァ、、、ハァ、、山田、、山田〇〇ど、殿、、、ハァ、、」と、息も絶え絶えになってきて気の毒でしたが、根性で全て読み上げられました。会場の全員が拍手喝采したい気持ちだったでしょう。私はお葬式の司会をすることがありますが、いつもの決り文句ではなくて、その時だけの何か特別なことを話せと言われると、想像以上に集中力とエネルギーを持っていかれるものです。

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そして、閼伽(あか)という、釈迦如来の心水とされる水を注いだ後、飯縄大権現の式壇からいよいよ火が移され、点火となります。この後、飯縄大権現の式壇の最前にお供えされていた赤い梵天が乗った神輿を担ぎ、散華して梵天によるお祓いをする儀式があると公式HPに書かれていましたが、これは何かの都合で割愛したようで、お寺の法被を着た係の方が梵天を出口の外へ移動しただけでした。

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ようやく火渡り祭らしく煙が上がり始めます。生の枝葉をあれだけ燃やせばこうなる、という感じで、モクモクと白煙が上がり始めました。

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慌ただしく行者さんたちが走り回り、立てかけられたご壇木を祭壇の中へ置き直します。

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もはや何をしているのかさえわからないようになってきました。

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この燃え方になると、見物していても顔が火照るほどの熱を感じます。最前列の方は顔が赤くなってました。場内で木を崩したり、水を撒いたりしている行者さんたちは相当熱いと思います。

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炎に向かって、導師が印を結んで祈祷を始めます。この導師は2020年の年末に50歳という若さで薬王院の三十三世貫主に就任した方で、壇信徒さんや地元メディアや政財界から「いずれは貫主に」と期待されていた方だそうですが、50歳で貫主になられたということで、周囲の期待がますます膨らんでいるというような方です。とある動画( ↓ )でお話しているのを見たことがありますが、このお話は私がよく高尾山へ行くようになった理由の動画なのです。

人の少ないときに、深呼吸しながらゆっくり登ればいい。難しい修行やお経もしなくていい。普段と違う、お寺という空間で目を閉じて手を合わせ、スッとする気持ちになればいい。そうすることで、喜びや安心や自信や勇気、生きていく力が新鮮になる。という言葉は、私にはとても響きました。

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こちらは以前、特別企画「護摩祈祷を受けに行く」でご紹介した「撫で木」を炎にくべている様子です。様々な祈願を書いて良いのですが、特に体の治したい部分を撫でさすることによって、病魔を滅すると言われています。撫で木の受付所で、頭の先から顔や腕、お腹と腰、膝まで、お風呂で体を洗うように全身隈なくこすりまくっているおばさんがいました。

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これは、行者が熱湯で心身を清める「湯加持(ゆかじ)」という行です。開会前から大きな釜に火をくべて沸騰しまくっていたお湯に、榊のような木の葉をつけて豪快に振り回すというものです。

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ちょっとでも飛沫がかかったら、「あちっ、あちちっ」となる程に煮えたぎっていました。近くに導師や控えている人がいたのですが、なんで平気なんだろうか? 行をしている本人は激しく動いているので、気合でなんとかなるとしても、動かずに飛沫を浴びてる人がなぜ平然としているのか不思議でした。

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火生三昧表白(かしょうさんまいひょうはく)を導師が奏上しています。三昧というのは、雑念を払い精神集中して得られた境地や能力のことで、火生三昧とは炎を生ずる三昧で、不動明王が入る境地であり、一切の煩悩や魔を焼き尽くすものです。本日の火渡りによって火生三昧を実践することを本尊に敬白する儀礼です。この後、導師が左に控える行者から榊を受け取って、振り回して炎の中の道を清め、左に控える行者から三宝に盛った塩を受け取って、どばーっと前方に撒きます。そして刀を鞘から抜き、ドスの利いた声で短く真言をお唱えした後、まだ炎が揺らめいている中をガツガツと一直線に進みました。「おぉーっ」と周囲の客席から感嘆の声が聞こえました。

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次々に行者たちが火渡りをしていきます。火をこの大きさまで抑えるのに、行者たちは皆さん顔を真赤に火照らせながら、水をかけたり木を崩したり、汗だくの水浸しになりながら活躍していました。これは凄い修行だと思う一方、皆さん高価そうな修験者の衣装を着ているのですが、これ一発でダメになっちゃうんじゃないの? と心配になりました。

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その後も行者さんたちは忙しなく動き回り、一般参加者が通れるように火を鎮めたり道を作ったりと大変です。

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そして、椅子席の上級市民の方々から火渡りが始まりました。ここから1時間後くらいと聞いていたので、お茶を飲んで休憩していました。出店の屋台から美味しそうな匂いがするのですが、病気で食事制限があり、食べられず残念です。お腹が空きましたが、病気を治すためにも火渡りして帰りましょう。

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1時間待って行列に加わりましたが、まだまだ続く長蛇の列に、諦めて帰りたい衝動に駆られました。混雑する場所が苦手というのも、克服しなくてはいけません。( ↑ ここ)まで来たらもうすぐです。靴下を脱いでズボンの裾も捲くって、スタンバイOKです。

火渡りの場所の直前に来ると、藁の上に大量の盛塩がしてあって、その塩の上に立ちます。隣りにいた行者さんが「やーっ」と私の足に向かって印を結んで振り下ろし、それを合図に歩み始めます。実は火渡りのシーンを撮影しようとGoProとアタッチメントを持って行っていたのですが、撮影に気を取られず真面目に火渡りしたくなって、GoProではなく購入したご浄塩を持って進みました。コース上の足元は箒で掃いたようにきれいになっていて、燃えカスの上を歩くイメージでしたが、きれいな土の上を歩いている感覚でした。それでもコース両側には、火が消えないように、薪や葉がくべられていたので、熱気がむぅんと伝わりました。

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ゴール地点にも盛塩がしてあり、それを踏んでゴールという感じです。隣に行者さんがいて「貫主の加持を受けてください」と言われました。お加持というのは、行者が厳しい修行で得た功徳を、法具を信徒の体に当てることで分け与えるというものです。緋色の衣を着た貫主( ↑ )が待っていて、火渡りをした全員の肩にひとりずつ法具(五鈷杵)を当て、お加持をしていました。遠くから見ていて、「はいご苦労さま、ちょんちょん」みたいなお加持だと思っていたら、ドスの利いた声で「むぅうぇいっ!!」と、気合満点のお加持をしていただきました。迫力に気圧され、思わず貫主様に手を合わせてしまいました。たぶん1000人近い人が火渡りしていると思われるが、凄いエネルギーの持ち主です。

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本尊の飯縄大権現に合掌ご祈念して火渡りを終えると、お賽銭箱があり、出口でウェットティッシュが配られていました。そのまま人工芝と椅子が置かれているゾーンに向かい、足を拭いて靴を履きます。ウェットティッシュには高尾山口駅にある温泉の割引券まで付いていて、至れり尽くせりのミシュラン三つ星観光地という感じでした。

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こちらは途中で持ち出された梵天です。この梵天は、梵天札という赤い札が棒にぶら下がったものが大量に刺さって作られていて、1本500円で買えます。火を扱うところに祀っておくと良いそうです。火渡り祭当日しか手に入らないというプレミアムな授与品がたくさん売られていましたが、やはり記念御朱印などは人気がありそうでした。

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私は前述のご浄塩(100円)と、渡火証(300円)を買いました。基本的に火渡りは無料で参加できるので、何も買わなければお金はかかりません。私のオススメは撫で木(200円)です。これから渡る火にくべられるので、火渡り修行を肌で感じられ、ご利益を得られそうです。高尾山薬王院に限らず、修験道と一体化した歴史のある真言宗天台宗の寺院などでは、よく柴灯護摩法要と火渡り修行が行われています。火渡し修行を行っているお近くの寺院を探してみて、普段と違う環境でスッとした気分になってみてはいかがでしょうか?

 

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