武蔵御嶽神社 目次
名称・旧社格
「武蔵御嶽神社」は、古くは「御岳蔵王権現」と呼ばれた神仏習合の権現社でした。
旧社格は、府社です。
創建
武蔵御嶽神社の創建は第十代天皇の崇神天皇の御代で崇神天皇7年(紀元前91年)とされています。祟神天皇とその子の垂仁天皇の代に活躍した皇族の武渟川別命(たけぬなかわわけのみこと)が東方平定の際に、大己貴命と少彦名命を祀ったことが始まりとされる、日本屈指の古社です。奈良時代に僧の行基が蔵王権現像を安置し、神仏習合の権現社となります。
御祭神
櫛麻智命(くしまちのみこと) 大己貴命(おおなむちのみこと) 少彦名命(すくなひこなのみこと) 日本武尊(やまとたけるのみこと) 廣國押武金日命(ひろくにおしたけかなひのみこと)
摂社に祀られているニホンオオカミの神様である大口真神も有名。
ご神徳
盗難除け・魔除け・豊作 など
愛犬の祈祷も受けることができます。
アクセス
東京都青梅市御岳山176番地
JR青梅線「御嶽駅」下車。バスで御岳登山ケーブル鉄道「滝本駅」へ。滝本駅からケーブルカーで「御岳山駅」下車、徒歩20~30分ほど。高低差のある階段が多い参道ですので、歩きやすい靴が必須です。車の場合、ケーブル下駅である滝本駅周辺に有料駐車場があります。
みどころ
天空の宿坊が文化財のような佇まいとして魅力的。本殿内陣には秘仏として蔵王権現像が安置されていて、12年に1度御開帳されている。愛犬と一緒にケーブルカーでお参りすることが可能で、お犬様を象った御札が人気です。
山頂である神社から更に奥の院やロックガーデンなど、登山コースが広がっていて、山歩きとお参りをセットで行える。
探訪レポート
長い歴史のある寺社には、相応の趣きというか雰囲気があります。建物の古さだけではなく、人々が祈りを重ねてきた年月の長さが、その雰囲気を生み出しているように思います。仏教や神道の教義がわからなくても、それだけの年数、人々の祈りがその寺社に捧げられてきた、というのは現実であり真実です。逆にその真実から、わからない教義を感じたいと思うのです。武蔵御嶽神社の創建は紀元前91年という超老舗。しかも、稀代の英雄「行基」が絡んでいます。それだけで私は胸踊ります。
アクセスは、JR青梅線・御嶽駅が起点となります。そこからバスでケーブルの滝本駅まで向かいます。歩くこともできますが、かなりの距離と急坂です。滝本駅周辺には駐車場もありますので、マイカーでもアクセスできます。
御嶽駅から滝本駅までの間に、写真(↑)の建物があります。見ると「御嶽神社 祖霊舎」と書かれています。祖霊舎とは、先祖の霊をお祀りするところなのですが、驚いたことに祖霊舎の奥が墓地になっているのです。神道が死を穢れとして忌避するというのは、私が働く葬儀業界では常識で、資格試験にも出題されるようなことです。神道を信仰する家でご不幸があると、神棚を半紙で封じて、死の穢れが神棚に及ばないようにします。神社への電話ですら、死の穢れが及ばない遺族以外の人にしてもらいます。
江戸時代の寺請制度のために寺院墓地が多かったのですが、明治維新で政府が神道を推し進めた結果、お墓問題が浮上します。そこで神道を信仰する家のために政府が作ったのが、谷中霊園や青山墓地や多磨霊園などの公営墓地なのです。決して神社の境内や隣に墓地を作るなんて発想はないのです。なのにここは御岳山内、まるで共同墓地の入口に仏像を安置したお堂が建つように、墓地の正面に祖霊舎を建て、祖霊をお祀りしているのです。御嶽神社は権現を祀る神仏習合の神社なのですが、こういうのは初めて見ました。
滝本駅からケーブルで山上へ向かいますが、ものすごい急勾配でした。ちなみに犬も一緒に乗ることができます。
ケーブルを降りるとしばらく山の中を歩きます。舗装された道なので快適です。山を抜けると、宿坊がたくさん現れます。「天空の宿坊」と銘打っていますが、宿坊自体が文化財になるような立派な建物です。というのも、御岳山の宿坊は御嶽神社の神職さんが参拝者をもてなすために営んでいるそうです。
貴族だけでなく、庶民の間でも〇〇巡礼とか、〇〇詣とかが流行った時代があって、庶民は伊勢講とか、熊野講とか、地域で講を作って参拝したのです。御嶽神社では神職さんたちが宿坊を経営しながら、各地を回って御嶽講を作ってもらって、どんどん参拝にきてもらうように薦めたのです。
参道の両脇に参拝記念の石碑がたくさん建っていましたが、東京のみならず、埼玉、群馬、茨城、千葉、神奈川など、信仰を集める範囲が関東一円くらいの広さです。きっと、地域のみんなで宿坊に泊まってお参りに行くことは、村の年中行事として楽しみのひとつだったのでしょう。
拝殿に到着しました。拝殿の隣に社務所があって、御札などを求めることができます。この神社は紀元前91年創建というものすごい歴史があります。736年に行基が蔵王権現像をこの神社に安置し、そこから1874年に神仏分離令で社名を変えるまでの1138年間、この神社は「御岳蔵王権現」という名で信仰を集めてきました。
ちなみに蔵王権現とはドラゴンボールに出てきそうな強烈な神です。釈迦如来、千手観音菩薩、弥勒菩薩が合体したもので、究極不滅の真理を体現し、あらゆるものを司る王とのこと。修験道の開祖、役小角が見つけたので、吉野金峰山に本尊があります。
それ、仏教じゃん! と思うかもですが、仏教の如来や菩薩や王が仮の姿で神になったのを権現と言うのです。神仏習合ですが、ちょっと仏の方が権力が強いです。
蔵王権現は本殿に安置されていて、12年に1度御開帳されます。
標高900mを超える山頂という立地なので、広くはない境内ですが、たくさんの神々をお祀りしています。その中に大口真神というのがあるのですが、これは奥多摩や秩父の山岳信仰によく現れる神です。日本武尊が東征の際に山深いところで迷ってしまったところ、白狼が現れて日本武尊を導いた。その時に日本武尊は白狼に、大口真神としてこの地を災いから守護するように命じた、という言い伝えがあるそうです。
犬の絵が書かれた大口真神の御札は、災いを避ける御札として奥多摩や秩父の民家の軒先ではよく見られるもので、私が社務所にいる間は一番売れていました。そうしたおいぬ様(白狼ですけど)への信仰が時代を経て、飼い犬の安全や健康を祈願するようになったのです。犬と一緒に参拝できたり、犬の祈祷もしているそうです。
狛犬と言えば獅子なのですが、御岳神社の狛犬は犬(ニホンオオカミ)なのです。本殿の狛犬は、写真(↑)よりもっとワンちゃんぽいのですが、武蔵御嶽神社に限らず、山岳信仰と縁が深い神社では、狛犬がニホンオオカミというのは「あるある」です。そんな神の使いを人間は滅亡させてしまったのですが・・・
境内の奥に、遥拝所があります。ここから見えるきれいな三角の山の中腹に、御嶽神社の奥の院があります。奥の院には日本武尊が祀られていて、日本武尊が奥の院に武具を納めたことが「武蔵」の国名の由来とされています。まぁ、「武蔵」の国名の由来は、あちこちで同様の言い伝えが多数存在します。
武蔵御嶽神社は講によって維持されてきた神社で、その歴史は素晴らしいし大切にしてほしいです。同様の東京の山岳寺社である高尾山薬王院と比べると、アクセスの良さや観光地としての設備の充実度は及ばないですが、高尾山では物足りない人に御嶽神社はおすすめです。ケーブル山上駅を起点に様々なハイキングコースがあって、登山好きの方々も楽しめると思います。飼い犬と一緒にケーブルに乗って境内まで歩くこともできます。講による維持に加えて、一般の観光客がもっと増えほしい、いわゆる、もっと評価されるべき神社に思えました。
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