寺社探訪

寺社探訪とコラム

「法然と極楽浄土」

GWに九品仏浄真寺へ二十五菩薩来迎会、通称「お面かぶり」を見学に行きました。一見すると滑稽に見える行事だが、その実は素晴らしかったという話を葬儀業界の仲間に話しました。するとその話が、お世話になっている浄土宗寺院の副住職に伝わりました。副住職は九品仏の「お面かぶり」の当日、阿弥陀仏や二十五菩薩と共に極楽浄土からやって来る行列の中で、散華を撒いていた玉川組の住職のひとりとして参加していたそうです。

仲間が私の話をネタにして、副住職とそんなやり取りをしたところ、国立博物館で行われている「法然と極楽浄土」を勧められたそうです。私としても、この展示は少し気になっていました。

仏教は派手である必要はないのですが、展示会や伝統行事など、仏教を外側から見学するとなると、派手な見どころが欲しくなります。インドで仏教が廃れてしまったのも、この派手さ(=感覚から心が受ける衝撃)が足りなかったのかなと勝手に思っています。釈迦も法然も、派手な仏像なんて必要ないという考えですが、意味のわからない漢字の経典や書物の展示より、射抜かれるような眼光の仏像の方に心を動かされてしまいます。私はこのあたりが俗物なのです。

そんなことで、私の中で浄土宗は地味な印象ですが、先日訪問した九品仏の「お面かぶり」は、そんな浄土宗が弾けたことをしているように見えて、ずっと興味を持っていたのです。副住職のお話だと、二十五菩薩の来迎図や、「お面かぶり」の行事が開催されている奈良の當麻寺の菩薩面も展示されているそうです。それでも浄土宗は展示向きではない宗派だと思うので、あまり期待しないで訪問しました。世相を反映してか、平日の国立博物館は外国人だらけです。一般展示だけでなく、「法然と極楽浄土」の展示も観ようという外国の方が結構いました。

入口からエスカレーターを上がると、恒例の歌舞伎役者が録音した音声ガイダンスが有料で貸し出しされています。これは利用した方が良いといつも思うのですが、結局利用しない方を選んでしまいます。歴史は説明してもらった方が理解が深まりますが、芸術って説明されるものではないですよね。説明されることで自分が受けるはずだった衝撃が、阻害されてしまう気がするんですよね。しかし、予想通り、書物や経文の展示が続きます。

法然の生涯とその時代背景が第一章、阿弥陀信仰が第二章で、法然の弟子である各時代の浄土宗の高僧たちが第三章、隆盛を極めた江戸時代の浄土宗が第四章という展示構成です。書物や経典などは平安時代鎌倉時代のもので、貴重な文化財ばかりです。見学していると、私の両サイドの方がふたりともルーペというか単眼鏡を覗いていました。これは博物館マニアには必需品なのか、結構持っている方がいらっしゃいました。

平安時代鎌倉時代の書物や経本が現在も読めるというのは、歴史のノスタルジックな部分ですね。仮名は分かりませんが、漢字は現代でも読めるものでした。重要文化財や国宝の展示もある中で、副住職が仰っていた国宝「二十五菩薩来迎図」は展示替えで見られませんでした。様々に見学していて私が感じたことは、絵巻物に書かれている絵って、描いた人は違うのでしょうが、全般的に通じる特徴があります。それは、定規で線を引いたような絵が多いということです。柱とか畳とか塀とか、やたらと直線が目立つ絵で、どうしてこんな画風が共通しているのだろうと不思議に思いました。他には、当ブログの「江戸・東京に縁の僧 3選」「祐天寺」の記事でご紹介した、江戸時代の僧祐天に関する展示が印象に残りました。祐天は念仏僧でありながら密教僧のような怨霊祓いの伝説がある僧です。その伝説通りに、祐天上人坐像はかなり奇怪な雰囲気を放っていました。江戸の武家から庶民までがこぞって欲しがったという祐天上人の六字名号も、祐天の人物像が想像できるような超独特なものでした。

こちらは撮影可能ゾーンに展示されていました、涅槃群像です。香川県法然寺所蔵のもので、82躯のうち26躯の展示となっています。涅槃図や涅槃像は見ることがありますが、涅槃群像というのは初めて見ました。高松藩初代藩主であった松平頼重(1622-1695)が構想したものです。最初から同じ数の像があったのではなく、増えたり減ったりしていたそうです。中央の釈迦の涅槃像は、おそらく信仰心の深い方々にたくさん撫でられたのだと思います。撫でられた部分だけ色が変わっていました。

釈迦の涅槃には弟子たちだけでなく、多くの仏や動物も釈迦の元に集まったと伝えられています。蛇や兎や、よくわからない動物の像も展示されていました。

左が阿修羅像、右が韋駄天像です。実際に法然寺に安置されている様子の映像もありましたが、もっと密集していて、圧巻の涅槃群像です。こちらの法然寺の涅槃群像は、法然寺の350年の歴史で初の出開帳なのだそうです。秋には京都国立博物館、来年秋に九州国立博物館で展示されます。

見終わってみると、やはり書物や経本よりも仏像の印象が強く心に残りました。展示物を見ても、浄土宗は江戸時代になって一気に隆盛したように感じます。さすがにこの展示だけで阿弥陀信仰を理解することは難しいですが、850年間受け継がれてきた信仰の質が伺えるような気がしました。今回は偶然にも、興味本位で訪問した「お面かぶり」の行事から国立博物館訪問まで、私にとって浄土信仰に触れる一連の出来事だったように思いました。副住職は奈良県當麻寺の「二十五菩薩来迎会(練供養会式)」も強くお薦めされていたそうですが、四月に開催されているそうなので、気に留めておきましょう。

 

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