日本神話がわかりにくいのは、まずは神様の名前が難しいことが大きな要素だと思います。天之御中主神とか、高皇産巣日神とか、漢字を見ても読めません。しかも日本神話は扱われている書物によって同じ神様の名前が違ったり、更に和魂や荒魂という性質で名前が変わったりと、10を超える別名がある神様も珍しくありません。
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天地開闢
日本神話の最初のイベントは「天地開闢」と呼ばれるものです。世界に天も地も無い混沌状態から、天に高天原(たかまがはら)が現れ、「造化の三神」と呼ばれる3柱の神が生まれました。生まれたと言っても、親に当たる神がいる訳ではなく、自然発生的に現れました。神様は人間のように男女の間に生まれるだけではなく、ひと柱の神から生まれることもあり、眼や鼻から生まれたり、血や尿から生まれたりもします。神様というと全知全能で優れた精神性を持った永遠なる存在を想像しますが、日本神話の神々は違っています。神様ですが実に人間らしい側面があり、意地悪をしたり、嫉妬したり、喜怒哀楽も激しく、短絡的な神様もいます。そして死んでしまうこともあります。
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
日本神話では神が最初に現れて天地を創造したのではなく、天地が現れてそこに神が生まれました。最初に生まれた神が最も偉大で、すべての神々の中心となるとイメージし易いのですが、日本神話では違っています。最初に登場した天之御中主神は宇宙の中心を表す神ですが、すべての神々の中心や祖神という扱いではありませんでした。延喜式神名帳に記載の神社の中でも天之御中主神を主祭神とする神社はひとつも無く、最初に現れた神というだけで、特に信仰の対象にはなっていなかったようです。時代が進むにつれて、再評価されて、様々な説が浮かび上がってきます。伊勢神宮外宮の主祭神である豊受大神と同一視されたり、妙見信仰と習合して神社に祀られたりしました。
水天宮 (東京都中央区)
子授けや安産で有名な水天宮でも、幕末・明治期に、神々の祖神だから子授けや安産にご神徳があると、天之御中主神を主祭神に加えました。ちなみに天之御中主神は男女の区別もない独神ですが、子がいるという説もあります。
高御産巣日神(たかみむすびのかみ)
天之御中主神の次に現れたのが高御産巣日神です。高御産巣日神にも親は無く、自然発生的に表れ、性別のない(※ 男神説あり)独神です。「ムスビ」の「ムス」は「苔むす」という言葉にあるように、「生まれる」「発生する」という意味があります。ビ=ヒ=霊で、「無」から生命が生まれる力を「ムスヒ」と呼んでいました。高木を神格化した高木神(たかぎのかみ)の別名もあります。
高木神社 (東京都東大和市)
高御産巣日神には、知恵の神様として有名な思金神(おもいかねのかみ)や医療の神様で有名な少彦名神(すくなひこなのかみ)(※ 古事記では神産巣日の子)など、たくさんの子がいるとされています。現在の天皇の祖神は伊勢神宮の天照大御神ですが、天照大御神の孫で、高天原(天)から葦原中津国(地)に降り立った邇邇芸命(ににぎのみこと)のひ孫が初代天皇の神武天皇となっています。邇邇芸命の母親が高御産巣日神の娘の万幡豊秋津師比売命(よろづはたとよあきづしひめのみこと)であるので、高御産巣日神も天皇家の祖神です。更に武甕槌命による葦原中津国の平定、邇邇芸命による葦原中津国の支配、神武天皇の東国征伐を司令し、子神たちにサポートをさせて天孫族の繁栄を築いた高御産巣日神は、最高神として天照大御神よりも優位に記述されている書物(日本書記)もあります。
神産巣日神(かみむすびのかみ)
高御産巣日神の次に(共に?)現れたのが神産巣日神です。やはり親は無く、自然発生的に表れ、性別のない(※ 女神説あり)独神です。邇邇芸命が「天孫降臨」し、葦原中津国(地上)を治めました。その葦原中津国の国造りをサポートした神様が神産巣日神とされています。特に、出雲の創生の「御祖(みおや)」と呼ばれています。というのも、葦原中津国の主宰神とされる大国主命が大己貴命と呼ばれていた頃、兄神たちにイジメられて命を落としたのですが、母親の願いに応じて大己貴命を蘇らせたのが神産巣日神なのです。古事記では少彦名命は神産巣日神の子となっていて、大国主命となった大己貴命と共に、葦原中津国の国造りを行いました。
また、天照大御神に高天原を追放され彷徨っていた素戔嗚尊が、食物を与えてくれていた大宜都比売神を切ってしまう神話があります。切られた大宜都比売神は、稲や麦、大豆や蚕など、五穀や絹などに姿を変えました。神産巣日神は地上に穀物や衣料をもたらすために、これらを素戔嗚尊に葦原中津国で育てるように言いました。地上に国を造り、五穀や絹を育んだ豊穣の神として信仰されています。
東京大神宮 (東京都千代田区)
東京大神宮は、そもそも伊勢神宮の東京支店のような由緒がありますので、天照大御神と豊受大神が主祭神ですが、造化の三神もご祭神として祀っています。縁結びなど都内有数のパワースポットとされていますので、訪れる方も多い神社です。他にも全国的に造化の三神をまとめて祀っている神社はそこそこあります。
日本神話の神様を解説していて思いましたが、やはり名前がややこしいです。名前のために内容が頭に入らないというか、理解を妨げられる大きな原因です。神様の名前について権威のある方に、まずは様々な文献に登場する名前を正確に表現することを諦めて、カタカナで統一してはいかがでしょうかと問いたい。
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