寺社探訪

寺社探訪とコラム

「柴灯大護摩供に行く② 2023」

先月は真言宗醍醐派品川寺の柴灯大護摩供に行きました。こうなったら都内で行われる柴灯大護摩供にできるだけ行ってみようと思いつき、今回は深川不動堂にやってまいりました。当ブログの特別企画「江戸六地蔵+千葉街道」以来、今年二度目の訪問です。

深川不動堂は千葉の成田山新勝寺東京別院です。柴灯大護摩供は「火生三昧(かしょうざんまい)」という、不動明王が自ら炎を発して入る深い瞑想の境地を表しています。不動明王は背中に炎を纏っていますが、その炎で衆生の迷いや悩み、煩悩を焼き払うのだそうです。成田山新勝寺といえば不動明王信仰の拠点とも言える聖地なので、期待しながら境内に向かいます。

ギリギリ5分前に到着したのですが、正面の入口は封鎖されていて、境内は人で溢れている様子。寺の方の誘導に従って、駐車場側から入りました。深川不動堂の正面にある本堂のようなお堂は旧本堂で、現在の本堂は梵字に囲まれたコンクリートの四角い建物です。ただ、正門から常香炉、参道、旧本堂と一直線に配されていて、旧本堂が本堂のように見えます。柴灯大護摩供も旧本堂の前に祭壇が設置されていて、参道に結界が張られて護摩壇が組まれていました。

旧本堂の左側にはVIP席があって、檀家の役員的な方が座っています。神職の着物を着た方もいたので、お隣の富岡八幡宮神職さんと思われます。私はほぼ見えないところからの見学になりましたが、周囲の方々はお年寄りの方々も多く、皆さん背伸びをして見学しようとしていましたが、ほとんど見えないと思われました。あまり広い境内ではないので、最大限工夫して護摩壇を設置したという感じでした。

法螺貝の音と共に大導師が入場します。あまり見えなくても、柴灯大護摩供は何度も見学してきたので、大体の内容はわかります。今こういうことをしているのだなぁと思い浮かべながら参加していました。成田山新勝寺真言宗智山派大本山です。以前、葬儀の仕事で別格本山である高幡不動尊金剛寺の末寺の住職とお話したのですが、真言宗智山派は京都の智積院が総本山なのですが、3つある大本山は全て関東にあり、2つある別格本山の1つも東京にあるという、割と関東に手厚い宗派なのです。成田山新勝寺真言宗智山派大本山というよりも、全国の不動尊信仰の中心地として有名ですけどね。

さて、流石に深川と申しますか、周囲の方々の信心深さがこれまでの柴灯大護摩供と違っていました。読経や作法の際には皆さん合掌して、数珠や信徒用の経本を手にしている方もいます。日頃からよく読経しているのか、真言や陀羅尼経も暗唱している方もいらっしゃいました。儀式の流れはこれまで見学した柴灯大護摩供とほぼ同じです。比較的あっさりしていて、儀式の進行が早かったです。一つひとつの儀礼の始まりに、これから何をするのかアナウンスがあったのですが、非常に短く簡潔にまとめられたアナウンスで、わかりやすかったです。

「床堅(とこがた)」→「神斧(しんぷ)」→「寶剣(ほうけん)」→「法弓(ほうきゅう)」→「願文(がんもん)」という流れです。儀礼の詳細は去年の高尾山薬王院での柴灯大護摩供のレポートに書いていますので、そちらもぜひご覧ください。法弓は結界の内側に魔が及ばないように四方と正面に弓を放つのですが、深川不動堂では正面の一矢のみでした。しかし、この一矢が参道に設けられた結界の中から旧本堂に向けて一直線に空高く、旧本堂の屋根を超えて最高の軌道を描いて放たれました。これには見物者から歓声が上がり、自然発生的に大きな拍手喝采となりました。

「閼伽(あか)」という釈迦如来の心水を注ぐ儀礼があるのですが、この水を注ぐと、すぐに護摩壇に点火されました。深川不動堂ではこの一連の儀礼を重視しているようで、「皆様、心に願い事を思い、合掌礼拝ください」とアナウンスされていました。

前回の品川寺では見物席と護摩壇が近すぎて、周囲が見えなくなるほどの煙と炎に包まれて灰まみれになりましたが、深川不動堂護摩壇の炎は過去一で凄かったです。風がなかったので真っ直ぐ大きな炎が立ち上がり、炎の中に不動明王の存在を感じられるような迫力でした。

炎が立ち上がる間、不動明王真言や観音経、般若心経、大金剛輪陀羅尼などが読まれていました。周囲には合掌している方や一緒に読経する方もいらっしゃって、本当に江戸時代から深く信仰が根付いているのだなと感じました。江戸時代、永代橋が架かってからは富岡八幡宮に詣でることが江戸庶民の行楽として流行し、富岡八幡宮別当寺だった永代寺が巨大な門前町と共に発展します。永代寺に成田山新勝寺から不動明王像を出開帳する催しが、江戸庶民の間で大流行します。明治維新廃仏毀釈で永代寺は廃寺となりましたが、不動尊信仰を求める庶民のために、成田山新勝寺がここに深川不動堂を存続させたのです。

炎に梵天を掲げて、その梵天衆生の前で振る「梵天加持」が行われていました。これはアナウンスがなかったのですが、見物者の方々は梵天を振る行者さんに向かって合掌して頭を下げていました。さすがです。大導師が炎に向かって御札を掲げて、一般衆生の皆さんが申し込んだ御札に不動明王のご利益が得られるように祈祷していました。

煮えたぎるお湯をぶちまける「湯加持」が始まりました。これから火渡りをする行者が身を清めるという意味のある行です。毎度思うのですが、絶対にめちゃくちゃ熱いはずですよね。このときも周囲から歓声と拍手が巻き起こりました。

行者さんの火渡りが始まりました。ただ、一般衆生向けの火渡りは無いようです。これは今回は無いのか、常に無いのかはわかりません。本家の千葉の成田山新勝寺では、一般衆生の火渡りもしているようですが、狭い境内を最大活用して護摩壇を組んでいるので、一般衆生の火渡りをすると混乱して危険だからでしょうかね。信仰心の厚い方々がいらっしゃるので、少し残念な気持ちがしました。

御札や授与品を三宝に載せて、行者さんが火渡りをしていました。私は開始ギリギリに到着したので良くわかりませんでしたが、これらの御札の申込みや、授与品の整理券が配られていたようです。深川不動堂の柴灯大護摩供は、一般衆生も火渡りするのではなく、大導師や行者さんが炎に掲げて祈祷した御札や授与品を求めて、ご利益を頂くということのようですね。行者さん達によって粛々と進む儀式と、周囲の人々の厚い信仰心によって、厳粛かつ神聖な儀式が行われていました。寺院と衆生の絆が感じられました。

 

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