手塚治虫の「ブッダ」は史実に基づいたフィクションなので、ディテールは手塚治虫の創作部分もありますが、それは内容をわかりやすく伝えるための創作なので、釈迦の生涯を理解する妨げになることはないでしょう。例えば、本書の中で非常にインパクトのある「アッサジ」という子どもは手塚治虫の創作です。自分の死を予言し、釈迦の目の前で予言どおりに死んでみせたアッサジは、釈迦の「死」を見つめるプロセスに大きな影響を与え、悟りへ至る大きな基点となる人物として描かれています。
他にも、動物と心を通わせる山賊タッタと盲目の妻のミゲーラ、心をなくしたヴィサーカーや、身分を偽り戦士になったチャプラなど、手塚治虫の創り出した魅力あふれるキャラクターが、釈迦との関わりを通じて仏教的境地を具現化していきます。釈迦の一生のお話ですが、作者は手塚治虫なので、日本人向けに創られています。釈迦が説いた最初の仏教は世の中の善悪とはかけ離れたものだったようですから、日本人には受け入れ難いものです。そこて手塚治虫は、人として善い行いをしましょう的な、日本人が共感しやすい仏教にして、釈迦の生涯を描いています。
死後の世界感については、日本人なら白装束の旅姿となり、六文銭で三途の川を渡り、旅をすると
審判を受けて新しい生まれ変わり先が決まるという感じのストーリーが組まれています。手塚治虫のブッダでは、命は形を無くして大きなエネルギーの玉に吸収され、その玉から新しい命が取り出されて生まれていくというような感じです。ブッダの生きていた時代は、死後の世界感についてあまり語られなかったそうです。仏教は、悟りを開くごと、つまり輪廻の輪から解脱して、生まれ変わらないことを本来の目的とします。なので、生まれ変わりのシステムは後の世になってブッダの弟子たちが創り上げたことが多いのでしょう。
そんな仏教もインドでは廃れてしまっているというのが残念ですが、手塚治虫が創り上げた釈迦と仏教のお話を楽しみましょう。
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