寺社探訪

寺社探訪とコラム

「どんど焼きに行く」

新興宗教の子どもとして生まれ育った私は、「どんど焼き」のような伝統行事の知識と経験が欠落しています。どのような目的でどのように行われているのかを知ったのは、ここ数年のことです。都心部ではほとんど行われていないようで、中野区在住の知人に聞くと、お正月飾りは塩で清めて燃えるゴミに出しましょうと推奨されているそうです。東京都多摩エリアで行われるどんど焼きでは、世田谷区の喜多見や、府中市の押立など、多摩川河川敷で行われているものが都内最大級とのこと。地元密着型人生を歩んでいる農家の知人に教えていただいたところ、どんど焼きは神事なのだそうです。

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そうとなれば、都内最大級も捨て難いが、神社で行われているどんど焼きに行ってみたい。調べてみると、国立市谷保天満宮で行われていました。小心者なので何でも確認しないと進めません。どんど焼きがどんなものなのか動画で見てみたら、国立市の他の会場で行われている映像がありました。


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知識と経験がない私には、槍を持ったマサイの戦士たちに見えました。不勉強なだけなのだが、何なんだこの行事は! と恐ろしくなりました。何も知らない大人の私は、あの竹槍をどう扱えばよいのか見当も付きません。周囲の人々の様子を伺いながら、何となく遠巻きに谷保天満宮に入ると、誰も槍を持っていませんでした。谷保天満宮ではやらないのか、コロナ自粛なのか、マサイ戦士の通過儀礼は今回は無しのようです。後で調べてみると、竹の先にお餅や団子を付けて、どんど焼きの火で焼いて食べると無病息災という言い伝えがあるそうです。

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きれいな円錐に組み上がった形を想像していたので、一生懸命準備された方には本当に本当に申し訳ないのですが、第一印象はゴミの山でした。よくよく見ると、お正月飾りがたくさん積み上げられています。いろんな紙袋に入って置かれているのでゴミっぽく見えてしまうだけですね。立川連邦王国に支配されている国立市には消防署がありません(警察署も税務署もありません)ので、市民の安全は消防団の皆様が守っています。さすがに神社は古い木造建築で、文化財的価値が高いですから、延焼しないようにあたり一面水浸しになっていました。どんど焼きは名称や方法が違っても、全国で行われている風習で、平安貴族の慣わしが起源と言われているそうです(諸説あり)。文献に残るのは鎌倉時代が最も古く、数百年に渡って各地域で受け継がれて来たものなので、地域差があるのですね。

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正月飾りの山の中心に背の高い竹が立てられていて、その先にだるまが串刺しになっています。獄門の刑のようで、なんとも残酷な印象を受けてしまいました。ところでこのどんど焼きの主催は谷保天満宮ではなくて町内会のようで、中央付近で責任者っぽい年配の方々が取り仕切っていました。お祭りのハッピを着た軍団もいらっしゃって、超地元イベントの空気が漂っていました。

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そんな中、儀式がいきなり始まりました。こういう地元イベントでは、最初に偉い人の挨拶から始まるのが常です。地元選出の議員さんや主催者の町内会長、谷保天満宮の奉賛会の会長さんなど。しかし、挨拶どころか開式の辞もなくヌルっと始まりました。しかもマイクもなく地声です。まず、修祓の儀を行います。宮司が祓詞(はらいことば)を奏上し、参加者・観覧者一同は頭を下げます。

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祓詞が終わると、榊を振って場を清めていきます。まずは正月飾りの山を祓い清め、それから参加者・観覧者一同を祓い清めます。皆さん頭を下げてお祓いを受け、厳かに神事が進みます。

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最後に宮司祝詞(のりと)を奏上します。頭を下げつつ聞いていると、やはり町内会の主催ということを祝詞の中で言っていました。地域性の高い祝詞で、この地域に暮らす人々の息災を祈願していました。

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そして、あらかじめ選ばれていた人々が、先の解けたしめ縄のようなものを持って輪になります。地元っぽい子どもたちも数名いて、周囲の大人たちが我先にと面倒を見ていました。そしてまずはそのしめ縄の先の解けた部分に点火して、それを持って山を囲み、一斉に点火します。

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中心のだるまが刺さった竹が燃えて折れるまでは、危ないから気をつけてくださいと忠告があり、その後すぐに竹がパンと破裂してだるまが火の中に落ちました。11月のおかがら火の神事のときもそうでしたが、火が着いたら終了的な感じで神職さんは去ってしまいます。ここまでの儀式中にも続々と正月飾りが集まっていて、町内会の皆さんが火の中に投入していきます。見物していた方々がゾロゾロといなくなり、何となくヌルっと終了のようです。葬儀の司会の仕事をしている身としては、私にMCを任せてもらえたら、始まりも終わりもキリッとビシッと進行できるのにと感じました。

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社殿の方へ行くと参拝の列がズラリと出来ていました。皆さん帰宅前にお参りしていくのですね。これが本来のどんど焼きなのか、コロナ禍でいろいろ省略されたどんど焼きなのか、私にはわかりません。非日常のお正月から日常に戻る節目として、こういうことをしてきたのだなと学びました。

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森羅万象あらゆるものに神が宿ると考えた日本人は、お正月の神様(歳神)をきらびやかで厳粛な飾りをして迎えました。そしてお正月が済むと、飾りを炎とともに天に舞い上がらせ、お正月の神様をお送りする。というのが神事として行われているどんと焼きの本質かなと思います。まだ火は燃え盛っていましたが、そのうち消防団の皆さんが消すのだと思います。この燃えた後の灰を家に持ち帰り、家の周囲に撒くと今年は無病息災なのだそうです。

 

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