お葬式の最後に親族の代表者が挨拶をしますが、これはやってみると意外に大変です。自分が喪主で父母のお葬式で挨拶ともなると、感情がコントロールできず舞い上がった状態で挨拶をし、頭の中が真っ白で記憶にも残らないなどということも聞きます。私はお葬式の仕事をしていますので、この「親族代表挨拶」をこれまでに何千回も見てきました。その経験をもとに、これから挨拶をする場面が訪れる方々に、コツなどをお伝えできればと思います。
「いい挨拶だったなぁ」と参列者の心に残る挨拶とは、やはり自分の言葉で語られた挨拶です。岸田総理を見ていても、誰かが作った文章を読むだけでは、伝わってくる心がありませんよね。それと同じで、挨拶文例を一言一句そのまま読む方がいますが、やはり聞いていても伝わってくるものがありません。一部分でもいいから、独自の文章を混ぜると、聞く者の心に響きます。
個人的には、紙に書いた文章を読んだら良いと思うのですが、読み上げるのは格好悪いと考える方もいます。紙を読むか、何も読まずに語るかと問われれば、何も読まず語る方が良いとは思います。しかし、そういう考えで丸暗記したことを話そうとすると、思い出せなくなってしまったり、用意した紙をカンニングのようにチラチラ見ながら話すことになったりします。そうでなくても、かなり早口な棒読みになってしまい、想いが伝わらないことがあります。自信がなければ、紙に書いた文章を読むことも選択肢に入れることをオススメします。
私は日常から多くの人々の前でマイクを持って話すことに慣れていますが、そうでない方が数十人、数百人の視線の的になって挨拶をするのは、かなり緊張すると思います。お辞儀してマイクに頭をぶつけるビートたけしのギャグは、これまでに何回も見てきました。「本日はお忙しいところ」と言いたかったのに「本日は美味しいところ」と言ってしまった方や、「母」と言いたかったのに「ママ」と言ってしまった方もいます。頭が真っ白になり何十秒も沈黙したり、「えっと〜、なんだっけ? ど忘れしたっ! へへっ」と漫談になってしまう方もいました。
それではここからが How to です。どうすれば良いのか、私なりに考えてみました。まずは、紙に挨拶文を書いてみましょう。大筋は定型文でも構いませんので、どこかに独自のエピソードや気持ちを言葉にした文章を挟むと良いでしょう。故人の素晴らしさをあれもこれも全て伝えたいと、生まれてから亡くなるまでの歩みを伝記のように話す方が稀にいます。しかし、出棺前の挨拶は限られた時間の中で行うものなので、あまり長い挨拶はできません。どうしても伝えたいことがたくさんある場合は、会葬者へ故人の思い出リーフレットを配ったり、想いの伝わる展示コーナーを設置したり、他の方法で伝えましょう。葬儀社の担当者に相談すると、色々な提案をしてくれるでしょう。
文章が完成したら声に出して読んでみて、言いにくい部分がないか、言いたいことの表現が合っているかなど確認して、文章を校正します。なるべく簡潔にまとめると良いと思います。校正が済んだら清書して、何度かゆっくり声を出して読んでみます。次に、紙を見ないで挨拶してみます。細かい表現は違っていても良いので、何も見ないで言いたい内容が話せるか、やってみます。何度か練習した上で、自信があれば紙を見ないで挨拶すれば良いですし、自信がなければ紙をそのまま読み上げるようにしましょう。どちらにしても結構早口になりがちですので、ゆっくり過ぎかな? という程度で丁度良いと思います。
もうひとつ重要なのは、いつ挨拶するかということです。具体的には、故人とのお別れの儀(お花入れ)の前か後かということです。これは葬儀社の担当者に聞くと、どちらか教えてもらえますし、自分の希望を伝えることもできます。故人の顔を見て触れて、花を手向けて、これが最後ですよと言われてお別れをするので、気持ちはどうしても大きく揺さぶられます。そして身を裂かれるような想いで棺の蓋を閉じたらすぐに挨拶というのは、精神的的にはかなり過酷です。
真面目な方や緊張する方の中には、挨拶のことで頭が一杯になり、お別れの儀どころではなくなる方もいます。他の家族や親族が棺を囲んで花を手向けて別れを惜しんでいる間、故人の息子さんが離れた場所で壁に向かって紙を片手にブツブツ挨拶の練習をしているという場面を見たことがあります。人前で話すことに慣れている方は構いませんが、プレッシャーを感じたりや過度に緊張する方は、お別れの儀の前に挨拶を済ませておけば、気にすることなくお別れに集中できます。大切な家族とのお別れの儀ですから、心配事で頭が一杯というのは避けたいですものね。
演出好きな葬儀社は、落ち着いた挨拶よりも、嗚咽して涙を誘う挨拶の方が、参列者の心に残る良い葬儀になった気がしますし、一番最後に挨拶してもらった方が式典が締まると考えます。それでも、挨拶に気を取られ過ぎて、故人と最も近い存在であるはずの喪主が、お別れどころではないというのも、葬儀社としては避けたいところ。落ち着いてお別れしたいから、先に挨拶を済ませたいと伝えたら、葬儀社の担当はそのように段取りしてくれると思います。
お葬式で親族代表の挨拶というのは、人生の中でも何度もする機会がありません。もしその時が訪れたら、じゅうぶんな準備をすることと、心を込めてゆっくりと、ということが数千回の挨拶を見てきて私がアドバイスしたいことです。あと、例えば気持ちが昂ぶって嗚咽してしまったり、話すべきことを忘れてしまっても、そこで気持ちを切らさないで、ひと呼吸置いて、ゆっくり深呼吸しましょう。気持ちを整えてから、また挨拶の続きを始めれば良いのです。
私自身もこの親族代表の挨拶をしたことがあります。お葬式の雰囲気や人前で話すことに慣れていても、やはりとても緊張しました。私は自分で書いた文章を見ながら挨拶しましたが、棒読みにならないように、心を込めてゆっくりと、というのを意識しました。気持ちが昂りそうな時は、親戚の子どもたちを見ると、落ち着くことができました。もしも、この先お葬式で挨拶することになるならば、そのときはこのアドバイスを思い出していただけるとありがたいです。最後に、これは献杯の挨拶ですが、話芸の達人が挨拶をしたらこんなにスゴい、というのをどうぞ(泣)。
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