寺社探訪

寺社探訪とコラム

「神仏:地蔵菩薩」

仏教の目的は悟りを開くこと、つまり輪廻転生の苦しみから解脱することです。悟りを開くと、仏(如来)に成ります(成仏)。当ブログのコラム「神仏シリーズ」の解説をおさらいしますと、釈迦族の王子ゴータマ・シッダールタが悟りを開いて、釈迦如来になりました。また、宝蔵菩薩が悟りを開いて阿弥陀如来になりました。

仏教では如来のみが、悟りを開いた仏として存在していますが、悟りを開いていないものの、如来に準ずる尊い存在があります。それが、菩薩・明王・天・宗教指導者で、如来と同じように信仰の対象となっています。今回はその中から非常に馴染み深い「地蔵菩薩」を解説します。

無仏時代の衆生救済

釈迦が入滅して、この世に仏がいない状態になりました。仏教では釈迦の次にこの世に現れて仏になる存在が既に決められています。それが弥勒菩薩で、弥勒菩薩がこの世に出現するのは56億7千万年(一説では5億7600万年)後と言われています。それでは流石に無仏時代が長すぎると思った釈迦は、弥勒菩薩が出現するまでの間、衆生を救済する役目を地蔵菩薩に託しました。

 

六地蔵

墓地の入口に6体のお地蔵様が並んでいるのをよく見かけます。浄土真宗以外の伝統的な宗派では、多く見られる光景です。これは、人が亡くなると行き先が6つに分かれているという六道輪廻説に基づいています。釈迦から衆生救済を託された地蔵菩薩が、六道(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天)の全てに衆生救済のために出向いていくということを現しています。極楽浄土に往生を願うものの、ほとんどの人は地獄へ行くと信じられていた時代もあります。そんな時でもお地蔵様が寄り添って救ってくださるから、一番身近な菩薩様になっているのですね。

※ 狛江市 曹洞宗 泉龍寺

 

子どもの守護

特に子どもの救済に関しては、強く信仰されてきました。「子安地蔵」「子育地藏」「水子地蔵」など、子どもに関するお地蔵様が多く祀られています。子どもが幼くして亡くなることは、仏教的には罪とされています。そのために三途の川を渡れず、賽の河原で両親への報恩のために石を積むのですが、鬼が邪魔をして積んだ石を崩してしまいます。泣き叫ぶ子どもを見守り救い出すために、賽の河原には地蔵菩薩が現れるのだそうです。

※ 世田谷区 真言宗豊山派 円泉寺

 

〇〇地藏

お地蔵様にはたくさんのご利益がありますが、人々の願いも種々あり、「〇〇地蔵」という名で、ご利益の種類や祈願の方法が、特化したお地蔵様がいらっしゃいます。「聞き取り地蔵」という、嫌な話を聞いてくれるお地蔵様や、長患いをしない「ぴんころ地蔵」、他にも「身代わり地蔵」「延命地蔵」「疣取り地蔵」などなど、数え切れない〇〇地蔵があります。

※ 新宿区 浄土宗 大宗寺 塩かけ地蔵

 

※ 目黒区 天台宗 大圓寺 とろけ地蔵

 

※ 港区 真言宗智山派 真福寺 勝軍地蔵

 

道祖神と習合

寺院の境内に安置されるのみならず、お地蔵様は道端に祀られることも多いです。野ざらしだったり、屋根だけ作られていたり、小さな祠に納められたりしています。特に道祖神信仰と習合していて、村の入口や通りの辻などに建立されて、道の安全や村の守護を祈願しました。道端にぽつんとあるお地蔵様でも歴史や由緒があって、( ↓ )昭島市の坂下地蔵尊は、江戸時代の八王子千人同心が使う日光街道の宿場の入口に建てられ、地域が火事になった時には、村人を助けるために空を飛び回ったという言い伝えがあります。

昭島市 天台宗 拝島大日堂 坂下地蔵尊

 

江戸六地蔵

そもそも京都にあった六地蔵に倣って、江戸の出入口に建てられた6体の地蔵尊です。丈六(約2m70cm)のお地蔵さまで、同時期に同じ作者によって作られたので、よく似た銅像です。台座に寄進者の名前が刻まれているのですが、合計すると72000名以上なのだそうです。それぞれ担当する街道があって、当ブログで地蔵尊と街道(宿場町)をセットで探訪するという企画を行いました。残念ながら一体は、明治維新廃仏毀釈で寺院ごと潰されて現存していませんが、代わりに六番目を自称する寺院が出現しています。

品川区 真言宗醍醐派 品川寺

 

東京都の地蔵菩薩

臨済宗建長寺派 正福寺 地蔵堂東村山市

実際に訪問してみると、その佇まいから、ただのお堂ではない雰囲気が、ビシビシと伝わります。こちらは東京都に2つしかない国宝建築物のひとつです。堂内には小さなお地蔵様がたくさん奉納されていて、千体地蔵堂とも呼ばれています。かつてはこの小さなお地蔵様をひとつ持ち帰り、祈願が叶えばもう一体を添えてご安置したのだそうです。年に1度、堂内に入って見学やお参りをすることができます。禅宗様式とか難しい建築の知識が無くても、思わず感動してしまう見事なお堂です。

 

天台宗 浄名院 八万四千体地蔵(台東区

天台宗大本山寛永寺塔頭寺院のひとつです。明治12年(1879年)に浄名院の住職が発願した48000体の地蔵菩薩の建立のため、境内にズラリと石仏が並んでいます。ただ、48000体まではまだまだ届いておらず、継続挑戦中となっています。境内には他にも様々なお地蔵様がいらっしゃって、喘息治療の功徳がある「へちま地蔵」や、前述の「江戸六地蔵」の六番目の代仏がご安置されています。

 

曹洞宗 高岩寺 とげぬき地蔵尊(豊島区)

地蔵菩薩を本尊とする寺院では、東京で一番有名な寺院ではないでしょうか。毛利家の女中が誤って針を飲んで苦しんでいたところ、本尊の地蔵菩薩を小さな紙に写し取った御影(おみかげ)を飲ませたら、針が紙札の地蔵尊を貫いて口から出てきた、という訳で「とげぬき地蔵」と呼ばれています。このような病気平癒のご利益を求めて、ご老人たちが集まるようになったと言われています。巣鴨地蔵通り商店街はいつも賑わっていて、旧中山道の雰囲気を感じさせます。商店街入口の真性寺には「江戸六地蔵」のひとつが建っていて、地蔵菩薩と縁深い通りとなっています。

 

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