寺社探訪

寺社探訪とコラム

「葬儀渡世の素敵な面々」

一般の方が葬儀を依頼するのは葬儀社だと思います。依頼すると葬儀社の社員がやってきて、見積もりや相談をして、通夜、葬儀を執り行います。遺族が依頼したのは葬儀社のみでも、ひとつのお葬式には、実は専門的な技術や知識を持った様々な会社や個人が関わっています。私もその1人なのですが、今回のコラムは、そんな葬儀に携わっている人々をご紹介しましょう。

葬儀社

まず、葬儀社に連絡すると、葬儀社の社員がやってきて…と書きましたが、昨今はそうとも限りません。葬儀社にも色々な形態があって、人気なのがインターネットで集客をして、契約している葬儀社や個人に施行を依頼する「ブローカー型」の葬儀社です。料金形態やサービスの品質はブローカー会社が一定の基準をもって管理していて、実際に施行するのは地域の葬儀のノウハウを持った地元の葬儀社だったり個人なので、良いとこ取りのような仕組みにも見えます。実際には元請けと下請けの葬儀社が2社いる訳ですから、コストが上がるように思えます。ですが、葬儀業界に価格破壊をもたらしたのはこのブローカー型の葬儀社で、安価で一定したサービスを提供しています。ブローカー型の会社以外にも、昔からある町の個人商店型の葬儀社や、いくつも会館を運営する企業型の葬儀社、個人で事務所のみで運営している人など、葬儀社にも様々なタイプがあります。また、葬儀社とは別に互助会も大きな勢力を持っています。ただ、互助会と葬儀社の差はだんだん無くなっているように感じます。

葬儀社の社員は、昔は裏稼業と言いますか、人が嫌がる仕事のひとつという要素が大きく、荒っぽい感じの人が多かったように思います。今ではそんな会社は淘汰されたのか、他の業種と変わらない雰囲気です。それでも葬儀業界のピラミッドの頂点で、葬儀社を通じて関係各社が仕事を得る構造になっているので、そういう立場を振りかざす会社や社員が一定数います。これは葬儀に限らず、どの業界でも同じですけどね。

代行業

葬儀社の次にご紹介するのが、上記のブローカー会社と契約して下請けの葬儀を請け負う代行業です。会社組織の場合も個人の場合もありますが、まだ開業まもない会社など、自社施行だけでは運営が厳しい会社や、代行専門の個人などがいます。元請け葬儀社との契約内容にもよりますが、自社で施行するよりは利益が上がらない反面、うまくいけば営業なしで定期的に仕事を受注できるのでメリットも大きいです。ただ、元請け会社とのパワーバランスは圧倒的に弱いので、サービスの品質や仕事の受注頻度、料金の折り合いなどは、一方的に受け入れるだけで、かなりストレスが大きい仕事でもあります。この方々は、元請け葬儀社の社員のように現れて仕事をするので、遺族側からは見分けがつきませんが、遺族から依頼を受けたのは元請け会社なので、元請け会社の社員として接していて問題はありません。

生花店

次に代表的な葬儀関係会社として、生花店が挙げられます。生花店も町の花屋さんから、100人規模の社員を抱える企業まで、様々に存在しています。現在では白木の祭壇を使用することがほとんどなくなって、生花祭壇が一般的です。ただ、1件あたりの葬儀の規模はどんどん小さくなっているので、名札の刺さった籠花は数が減っていると思われます。特に、コロナ禍で近親者のみの葬儀が増えていますので、籠花なしで生花祭壇のみというのが多くなっています。大きな葬儀社だとグループ会社に生花店があるようなところもあります。基本的に生花店の社員は専門職で、葬儀の生花のスペシャリストです。

青果店

生花と共に祭壇に供えるものとして果物や缶詰などの盛籠がありますが、こちらは青果店が納入しています。葬儀専門の青果店もありますし、町の商店街の八百屋さん、果物屋さんという方もいます。

返礼品会社

葬儀につきものなのが返礼品です。こちらもほぼ葬儀専門の返礼品会社が請け負っています。返礼品にはいくつか種類があって、葬儀に参列していただいたことへのお礼である会葬返礼品、お香典をいただいたことへのお礼であるお香典返し、初七日法要のお香典をいただいたことへの初七日の引き物などが代表的なもので、他にも地域や家系で独特の返礼の風習があります。葬式饅頭なども、その代表例ですね。返礼品会社は、ただ商品を納品するだけでなく、通夜や葬儀に立ち会って、会葬者へ配る仕事も請負います(葬儀社との契約上、立ち合わない場合もあります)。そうして葬儀の現場で遺族と接する訳ですが、その後、いただいたお香典の金額に合わせてお香典返しをするリストを作ったり、実際に注文を受けて発送したり、四十九日法要の参加の有無を確認する葉書を出したり、四十九日法要の参加者への引き物を用意したりと、しばらく遺族との付き合いがあります。それらを全て葬儀社の担当者が打ち合わせすることもあると思いますが、その後ろで返礼品会社が動いているという訳です。

仕出し料理店

コロナ禍で大打撃を受けている葬儀業界ですが、中でも過酷なのが仕出し料理店です。私の身の回りでも、退職や廃業や撤退という話を耳にします。大袈裟な言い方ですが、食べるということは、人間が生きていく中でも根幹を成すものです。亡き人を送る儀式の中で食べるということには、それなりの意味と意義があります。儀礼的な意味を除いても、飲食をするから人が集まり会話があり、故人の生きていた姿が様々に語られ、それが供養になっているのだと思います。関東では参列者全員に通夜振る舞いをするので、大きな葬儀になると、葬儀代より料理代が高くなったりすることもありましたが、時代の流れや家族葬の普及による会葬者の激減の影響で、料理を出す数が極端に減ってしまっていました。家族が食べる5人前の料理を冷蔵車で高速道路を使って配達して、追加対応などしていたら、採算が合わなくなってきます。そんな家族葬の流れの中、コロナによる会食の中止で、仕出し料理店は進むか退くかの大きな選択肢を抱えています。

湯灌・ラストメイク

高齢者向けの入浴サービスから葬儀業界へ参入してきたと言われています。葬儀そのものが規模縮小されて、大きくやらなくなってきた代わりに、手厚くやるようになってきました。そこで湯灌やラストメイクを選択する方が増えています。湯灌とは、介護用の浴槽を使って、故人を清める儀式です。ドライシャンプーや、メイクのみなど、色々とコースがあって、オプションで別途費用になっているパターンが多いです。アメリカのアカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」の主人公は納棺師という設定ですが、湯灌・ラストメイクの会社で、納棺師さんは働いています。映画の中にもありましたが、看取られて亡くなった方だけではなく、腐敗して傷んだご遺体にも接する仕事です。メイクがあるので、全般的に女性が多く活躍しています。大きなメイクバッグを両手に持って、現場から現場へ、軽バンで颯爽と仕事をする姿はとても格好いいです。

霊柩車・バス・ハイヤー霊安室

地方都市の葬儀社ですと、自社で霊柩車やマイクロバス、霊安室などを所有している葬儀社が多いと思いますが、首都圏では専門の車両会社が請け負っていることが多いです。一般にはこれらの車両は、お葬式が終わって、火葬場に行ったり来たりすることに利用することが知られていますが、その他に、病院から自宅へ搬送したり、自宅から式場に連れて帰れない方のために、霊安室を完備にしている車両会社があります。今では宮型の霊柩車はほぼ見なくなり、洋型霊柩車が主流です。最近はアルファードやエルグランドなど、ワンボックスの高級車が多くなり、霊柩車と寝台車を兼ねられるワンボックスタイプも多く使用されています。この分野はこの10~15年ほどで、新規参入する人が増えました。アルファードタイプの霊柩車兼寝台車を一台用意して、その一台で稼働するという気軽な参入が増えています。マイクロバスのドライバーさんは二種免許が必要で、皆さんプロドライバーという感じで、葬儀の儀式的なことはノータッチですが、出棺という葬儀のクライマックスを演出する重要な仕事です。

物品リース

葬儀に必要な物品は、葬儀の規模や内容によって、種類も数量も違ってきます。同じ日に行う葬儀の件数も、その時々によって違います。その最大のものを想定して、物品を所有してしまうと、ほとんど使わない物品で倉庫が溢れてしまいますし、コストがかかりすぎてしまいます。そこで、施行件数などから判断して、ある程度の物品は葬儀社で所有し、それを超えるものはリース屋さんから借りるというのが一般的です。葬儀のリース屋さんは、葬儀以外の仕事もしますが、ほぼ葬儀専門の会社が多いです。主にテントや業務用ストーブや看板類などの外装品をリースします。大きな敷地の自宅で、大規模葬儀を行う場合、リース屋さんの腕の見せ所がたくさんあります。葬儀をするために住宅は設計されていませんから、それを葬儀用に変えてしまう道具と技術が必要となります。力仕事も多いので、作業着がユニフォームです。職人のように器用に何でもできてしまうという印象があります。

セレモニースタッフ

道具と同じ考えで、葬儀に必要なスタッフの数は葬儀ごとに違っていて、葬儀社は最大を想定して社員を抱えると、ほとんどの日は人が余って人件費ばかり嵩みます。そこで葬儀の施行に必要なある程度の知識と技術を身に着けたスタッフを一日契約で派遣するというサービスがあります。葬儀に必要な知識や技術といっても、カテゴリー別にいくつかに別れています。葬儀の司会や案内などの仕事を請け負うスタッフ会社、生花店やリース屋さんの仕事を請け負うスタッフ会社、料理の配膳などを請け負うスタッフ会社、などなど。1日契約の仕事なので自由度が高く、他に仕事をしていたり、役者さんや芸人さんが多いのも特徴です。登録制のスタッフ会社も多いので、フリーランスで直受け、下請けなど組み合わせて働く人が多いです。スタッフ業務の皆さんも、葬儀の規模縮小や簡略化に苦しんでいて、特にコロナ禍で料理がないので、配膳スタッフさんが業界を離れるという話を多く聞きます。

その他

この他にも、葬儀は色んな人達の支えが加わって行われます。貸式場に務める管理人さんとか、葬儀社にかかってくる電話を、夜間は転送して受ける会社もあります。葬儀専門の道具類の卸売業もあります。ドライアイスも、葬儀には欠かせないもののひとつです。葬儀社を紹介するコンサルタント業もあるのです。そんな中、絶対別々であるべきと私は思いたいのですが、最近じゃお坊さんも、葬儀社側のスタッフのような人が誕生しています。葬儀社が依頼し、依頼に応じ派遣されるお坊さんは、葬儀社の指示のもとに葬儀を支えるひとりになってしまいます。葬儀社がどんなアプローチをしても、そこは一線引いて葬儀社と付き合えるお坊さんでいてほしいと私は思っています。

今はどの会社もコロナの影響を受けていて、いつかみんなに仕事が戻る日が来るように励まし合いながら、苦しい中で頑張っています。「〇〇さん辞めたらしいよ」などという話をあちこちで耳にします。去るも残るも茨の道なのかもしれません。私自身もいつまでもこの状態が続くと、耐えきれないかもしれません。不安はたくさんありますが、現場で仲間が働く姿を見ると、私も負けずに頑張らなくちゃいけないと勇気づけられます。

 

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