今回は私が経験してきたお葬式の中でも、トップクラスに酷い喪主のお話をしましょう。
奥様が故人、ご主人が喪主で、お子様はいないというお葬式のお話。夫婦ふたりで寄り添って歳を重ね、ご主人ひとり遺されて………と、勝手な想像をしても、現実はそんなステレオタイプなものではありません。
ご主人は地主さんなので、自分の土地に大邸宅とマンションとテナントビルを所有していて、通夜式場まではそれらを建てた建設会社の社員が車で送迎をしていました。いわゆる富裕層なのですが、とにかく周囲の人を召使いのように扱うわがままな人で有名でした。
式場に着くなり体調が悪いと言い出して、鼻をかむのですが、鼻をかむのに温かいおしぼりをくれとのこと。おしぼりは数枚用意していましたが、水洗いして絞ってレンジでチンして出します。これを渡すと思い切り鼻をかんで戻されるのです。するとすぐに「おしぼりちょうだい」と言われます。おしぼり出す→鼻水まみれになる→洗う→レンチンする→おしぼり出す、これを1時間ほど繰り返した後、喪主は「体調悪いので帰る」と、建設会社の車に乗って帰ってしまいました。
こんな人なので、親族や一般社会との関わりはなく、参列者は金融機関など喪主の資産で商売をしている業者が数名、親族は亡くなられた奥様の実家から数名という規模でした。つまり、喪主が帰ってしまったので、〇〇家のお葬式なのに、〇〇家の人は誰もおらず、故人の実家の人が喪主っぽいことをしていました。それでも、葬儀費用やお布施はきちんと喪主が支払うので、葬儀社もお寺も何も言いませんし、親族にしても不満はあれど大騒ぎにはなりません。お金の力って凄いですね。
結局、喪主は翌日の告別式にも現れず、故人の実家が代わりに施主の役目を果たしていました。どんな事情があったにしても、自分の嫁が亡くなって、知らんぷりで人任せは酷い。お焼香もしない、最後のお花入れもしない、火葬場にも行かない、お骨を拾うこともしない。そもそも家にいて出てこない。
葬送の儀を全て終えて、故人の遺骨が帰るのはそれでも喪主の家なのです。故人の遺骨を迎えたのは長年連れ添ったご主人……ではなく、家政婦さんでした。後飾り祭壇を設営し、祭壇の両側にに花を飾って四十九日までお骨をご安置します。私たちが祭壇を設置し、故人の実家の人たちが線香をあげて帰るまで、喪主は自分の部屋から出て来ず、姿を見せませんでした。自分の代わりに妻の葬儀を取り仕切ってくれたのに、お礼も言わないどころか顔も見せないのです。仕事とはいえ、やるせない気持ちになりました。それでも、腹の底で感情を押し殺し、妹の葬儀を取り仕切った故人のお兄様の比ではない。家政婦さんに見送られ、ため息と共に立ち去るのでした。
(※ 写真はイメージのためのフリー素材です)
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