三宝に帰依することは仏教徒の第一歩です。三宝とは、釈迦=「仏」、釈迦の教え=「法」、釈迦の教えを説く人=「僧」のことで、帰依する=「自分自身の拠り所とする」ということです。芸人の千原せいじさんが僧になりましたが、今回は「僧になる」というテーマを深堀りします。現代社会においては、僧になる人は寺の子として生まれ、親の跡を継ぐ方が大多数ではないでしょうか。では、寺の子ではない方はどうすれば僧になれるのでしょうか。
師僧と出会う
僧になるために必要な資格というものはありません。ある意味、自称の僧になって、自分なりの修行をしたり仏道に精進することはできますが、ここで言う僧の定義としては、既存の宗派が認める僧として、その宗派の僧であることを名乗れる資格のある人のこととします。
さて、寺の子ではない人が僧になるためには、師僧と出会うことが第一歩として良いと思います。師僧がいることを、僧になるための必須条件にしている宗派も多いです。必須条件でなくとも、相談相手となって自分を導いてくれる僧がいることはプラスになると思います。しかし、弟子にしてくださいとお願いしたところで、簡単に面倒を見てくれる人はいないと思います。そこで、僧になるという本気の決意をしたならば、僧のコミュニティに相談すると良いと思います。宗派には宗務局のような僧を統括管理する部署があって、その出先機関のようなコミュニティが各地方にあります。そこで僧になるためにどんな道を歩めば良いか相談できると思います。
また、寺院が開催している坐禅会や写経会や勉強会などの在家信者向けのコミュニティに参加してみるのも良いでしょう。僧の活動を間近で見たり、僧と話をしたりすることで、自分の望む道が本当に僧になることなのか、仏教に触れながら考えることができます。真面目な姿勢で取り組んでいると、その寺院の僧に進路を相談したり、誰かを紹介いただいたりすることもあるかもしれません。
得度式を受ける
各宗派によって違いはあると思いますが、僧になるための最初に受ける儀式が得度式というものです。僧になることを出家と言いますが、出家は仏門に入るために両親や家族と関係を断って家を出ることで、実際に仏門に入るために受ける儀礼を得度と言います。宗派の本山や地域の核となる寺院で行われたり、一般の寺院で師となる僧のもとで行われたりします。髪を剃って仏門に入る決意を確認し、袈裟を授与されるというような内容が一般的です。師僧から受けることができるので、寺の子ですと父親を師僧として、小学生くらいで済ませる方が多いと思われます。それって出家と呼べるのかと私は疑問に思いますけどね。
戒を授かる
仏教徒になるためには、守らなければならない戒律があります。戒律は簡単に言うと規則のようなものです。「授戒会」は戒律を守ることを誓い、戒名を授かる儀式です。戒律は仏教伝来と共に日本にもたらされましたが、正式に採用され始めたのは200年後くらいの奈良時代からです。僧には特権がありましたから、無駄に僧を増やさないため国が制限をして管理していました。戒を授かる場所を戒壇と言い、平安時代には奈良の東大寺と比叡山延暦寺が認められていました。現代では宗派の本山で行うこともあれば、一般の寺院でも行われています。歴史の中で戒律は無視されたり重視されたりしましたが、現代では各宗派独自の戒律や戒律に付随するものがあり、仏門に入るために必要不可欠とされています。在家の信者に対しても、授戒会に参加して戒名を授けたり、亡くなってからお葬式の儀礼として行ったりしています。
戒律の中身は、殺生しないとか嘘つかないとか性交しないとか、いわゆる仏教のイメージそのままですが、僧として名高い方でも、厳密に言えば戒律を守っている人は誰もいないと思われます。
仏教系の学校で学ぶ
僧になるための儀礼を終えると、実際に僧として活動するための知識や技術を学びます。これには僧を養成する学校に入ることが近道です。大学や教学所で指定の講座を履修することを必須とされる場合も多いです。仏教系の大学では、得度式や授戒会も在学中に行えます。
仏教系の大学や専門学校はとにかくたくさんあります。ここで重要なのは、その学校が、自分のなりたい包括宗教法人(〇〇宗など)の僧になることに繋がっていることです。各宗派ごとにその宗派の僧として認可する条件は違います。また、専門学校や教学所のようなものの中には、信仰心の厚い在家の人向けの仏教講座でしかないものもありますし、もっと胡散臭いものもあります。後悔しないためにも、師僧や宗派の宗務局に確認してから学校に進むと良いです。
代表的な仏教系大学
大正大学(天台宗・浄土宗・真言宗豊山派・真言宗智山派・時宗)
佛教大学(浄土宗)
などかあります。一度社会人を経験していたり、定年後のセカンドライフで僧を目指す方は、大学に入学することはハードルが高いかもしれません。僧侶を目指す人用の編入システムを設けている大学もあります。日中に学校に行けないという方には、通信教育を行っている大学や専門学校もあります。宗派が運営に参画している大学で特定の講座を履修していると、卒業後の僧階が優遇される宗派も多いです。
僧になるための実技習得
各宗派には大学とは別に教学所という位置づけの、その宗派の僧を養成する機関があります。得度し授戒を受けた僧は、教学所で読経や作法の知識や実技を学びます。大学に入学すれば、これらの実技を大学で学ぶことになります。このあたりは各宗派独自のシステムがあり、大学で全て履修できるのか、追加で教学所でも学ぶのかは、それぞれ詳細は違うと思います。中には、僧としての生活の規律を同時に身につけるために、数年間泊まり込みで集団生活する場合もあります。
そのように、数ヶ月〜数年かけて身につけた知識や作法を活かして、僧として生きていく訳ですが、そのためには衆生に仏道を説いて導く「阿闍梨」の資格を得なければなりません。「潅頂」という儀礼を受けて阿闍梨となれば、一人前の僧として認められます。名称や詳細は違っていても、ある特定の試練を突破して、〇〇宗の僧であることを認められていくシステムです。例えば、衆生に対して〇〇の祈祷を行うには□□を履修する必要があるだとか、葬儀において引導を渡すには△△の資格が必要だとか、宗派によって決まりがあるので、それらを履修して資格を得ていきます。
僧として生きていく
ある程度の知識と技術を身に着けたら、寺院を拠点に僧として活動し始めます。寺の子ではない僧が選択する道としては、本山級の大寺院や地域の中核寺院に勤務するか、師僧の寺院に勤務することが多数派ではないかと思われます。中にはいきなりフリーランス僧侶や、僧侶Youtuberとして活動する人もいるかもしれませんが、サラリーマン僧侶からスタートすることが一般的です。勤務する寺院の跡継ぎになれるかどうかは未知数ですが、やはり僧となったからには、いつかは住職となって、一寺院の主として寺院運営を目指したいという方も多いと思います。
ただ、新規で寺院を建立するには、無借金で数千万〜数億円という資金を準備し、維持運営していける檀家数の確保も必要です。とある行政書士事務所に寄せられた累計200件の寺院設立の依頼のうち、現実に寺院運営まで辿り着いたのは4件のみとのこと。かなりのハードルです。
寺院建立よりも簡単に住職になる方法があって、それこそ運命の出会いというヤツです。私が見たことのあるパターンですと、寺の長男がお坊ちゃま育ちでだらしなく修行もしない人で、檀家さんたちの猛反発を受けて、結局娘婿に僧を迎えて後を継がせたとか、寺の息子が夢を追って家を出たり(本当の出家ですね)、単に子どもも弟子もいないので後継者がいないなど、後継者を探している寺院は結構あります。ただの仏教好きな葬祭スタッフであった私も、かつて寺院の婿養子に誘われたことがあります。
ですから、勤務している間に運命に引き寄せられることがあるかもしれません。サラリーマン僧侶の中には、実は立派な寺院の跡継ぎだが、まだ住職(父親)が現役で働けるので、大寺院に勤めて修行や経験を積んでいるという方もいます。様々な方と出会って人脈を広げつつ、仏道に真面目に向き合っていれば、いつか運命があるべき場所へ誘ってくれるかもしれません。
( ※ 写真はフリー素材です)
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