寺社探訪

寺社探訪とコラム

「お墓の事情」

昨今のお墓事情では、分譲墓地を代々継承する従来のお墓とは違った、新しいタイプのお墓が登場しています。特徴としては、跡継ぎのない方や子孫に負担をかけたくないと考える方向けに、管理費や墓じまい費用などを含めて、購入時以外に費用が発生しないタイプのお墓がメインです。納骨堂だけでなく、区画や墓石もある家族墓や個人墓も登場しています。

「様々な……」というのは岸田首相の口癖ですが、様々な……と言ってしまうと、その中身は見えてきません。では、現代の埋葬方式にはどんなものがあるのでしょうか。中身を見ていきましょう。

 

家系墓

従来のお墓のイメージです。墓地の区画の使用権を購入し、そこに墓石を建立します。公営墓地、寺院墓地、民営墓地などがあります。寺院墓地であれば、檀家としての付き合いも必要になる場合がほとんどです。従来のお墓なので、システムも昭和の時代から受け継がれています。お墓は基本的に男系子孫のひとり(ほぼ長男)が継いでいきます。例外もあると思いますが、次男以降はその墓には入れず、新たに墓を求める必要があり、女子は嫁ぎ先のお墓に入るのが慣例です。

墓地を購入して墓石を建立する費用は、場所によって差がありますが、東京都では平均値でも200万円以上とのことです。取得費用の他に維持費がかかります。

 

樹木葬

一定の区画内に複数の人々の遺骨を納めて、シンボルとなる木を植えて墓地としています。お骨は納骨袋のようなものに納めて、他の方のお骨と混ざらないようになっていることが多いですが、1度納骨したら引き出せない場合が多いです。区画のどのあたりに故人の遺骨があるかわからないですが、その区画に埋葬されている方の名前を掲示している樹木葬墓地もあります。費用は最も安価で、維持費が不要ですので、後継者のいない方々に人気です。

 

納骨堂(合祀タイプ)

墓地の一角にひと際目立つ大きな墓石やお堂タイプのものが多いです。複数の方々の遺骨を納めるお墓で、樹木葬のシンボルツリーが墓石やお堂になった感じです。樹木葬とおなじく、1度埋葬すると引き出せない場合が多いです。名前を掲示できる納骨堂も多いです。費用も低価格で維持費も不要の場合が多く、後継者のいない方向けに多く販売されています。

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納骨堂(ロッカー式)

屋内にある墓地で、区画がロッカーのようになっています。ひとつのロッカーに複数の遺骨を納めることができるものもありますので、従来の家系墓のように家系で受け継いでいくタイプもあります。共用の礼拝所が設置されていて、カードキーをかざすと特定の故人の遺骨が礼拝所に自動的に運ばれて安置されるハイテク墓地などもあります。ロッカーも、仏壇のようなものや、コインロッカーのようなものや、本棚のようなものなど、多種多様に展開しています。従来のように維持管理費が必要で家系で代々継いでいくタイプのものもあれば、維持費不要で契約年数を過ぎれば合同墓に合祀されるタイプのものもあります。

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個人墓(夫婦墓)

多様性の時代ですので、跡継ぎが不要の墓地も、安価な集合墓だけでなく、個人墓(夫婦墓)として墓石を建てられる墓地も、民営墓地を中心に広がってきました。子孫に負担をかけたくはないが、子孫や親戚、友人知人にお墓参りしてもらいたい方には良いと思います。例えば13回忌までとか33回忌までとか、お墓の契約期限が過ぎたら墓石が取り除かれ、お骨は合祀墓に移されるというシステムが多いです。費用はかかりますが、私(夫婦)だけのオリジナルなお墓なので、おしゃれで個性的な墓石が多いです。

 

海洋散骨

家系墓以外に納骨するビジネスの先駆けとなったのが海洋散骨です。船に乗って故人の遺骨を海に撒くというものです。石原慎太郎さんが海洋散骨されましたね。お葬式を依頼した葬儀社を通して申し込みできると思いますし、自分で直接海洋散骨業者を探せるならそれでも可能ですが、散骨にはルールがありますので、個人で散骨するのは難しいです。

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墓石を建てるより費用が抑えられる海洋散骨は、コロナ禍で需要が高まっているそうです。船をチャーター(貸し切り)して、海上でセレモニーを行い、食事をすることもできます。また、複数の家族と一緒に行う合同散骨式だと費用も抑えられますし、散骨に参加せずに業者に一任すれば、もっと費用は抑えられます。散骨してしまうと、墓参りの概念が崩れますが、遠方から墓参りを義務的にしなくて済みます。どこかに心の拠り所を持てれば、海洋散骨もますます発展していくと思います。

 

手元供養

墓埋法という法律があって、お骨はどこにでも埋葬できる訳ではありません。しかし、必ず埋葬しなくてはならないという訳でもなく、自宅で遺骨を保管し続けることには問題ないのです。ということで、遺骨を粉骨すると1/20くらいになり、さらに圧縮するともっと小さくなります。おしゃれな小瓶のような骨壷で自宅の仏壇に安置したり、供養のためのスペーシアを創作したり、ペンダントなどのアクセサリーにして身につけることもできます。

大切な人をいつも身近に感じられるメリットもありますが、ぞんざいに扱ってしまったり、失くしてしまうこともあるかもしれません。例えば、海洋散骨をして、遺骨の全てが海に還ると淋しいという場合に、一部を手元供養にして残すという手段もあります。

 

需要と供給

従来の家系墓が主流の感覚で考えると、これからの墓地の需要は縮小していく傾向にあります。亡くなる方が増えても、少子化で墓を受け継ぐ人が減少するので、お墓の数そのものも最終的には減っていくと思われます。

多様性が尊重される社会で、なかなか子孫に墓の面倒を見てほしいと言いにくい世の中になってきました。そんな世相を踏まえて、墓地産業界が需要をとらえるべく、新たな墓地の在り方を示しています。何もしなければ廃れていく中で、人々の希望とビジネスの可能性の両方が発展拡大していくことが理想です。ただのビジネスチャンスではなく、本当に考え抜いた戦略や、先々までの展望が必要となります。そこに歪みが生ずると、足立区の住職殺害事件のようなトラブルに発展する危険もあります。

おそらくしばらくの間、多様なコンセプトの墓地が販売されると思います。墓石業界も、生き残りをかけた負けられない戦いと、アイデアを絞って勝負に出ています。消費者として大切だと思うのは、よく見極めることだと思います。当サイトでも、人口減少や過疎化による寺院消滅の危惧を書くことがあります。そのような寺院にとって、流行の樹木葬や納骨堂は寺院運営の起死回生の起爆剤となります。ただ、一時しのぎに過ぎないのであれば、その墓(納骨堂など)は寺院ごと消滅してしまうかも知れません。このお墓は自分の希望に合っているのか。このお墓は今後も安定した運営を続けられるのか。この価格や維持費は合理的なのか。よく話を聞いてシミュレーションすることが大切ですね。

( ※ 写真はイメージのためのフリー素材です)

 

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